大スギ、雷神に屈す

すでに新聞などで報道されていますが、市内緑区の津久井城址城山(標高375m)のシンボルツリーとして君臨してきた大スギが8月11日午後2時45分頃、落雷により焼失しました。麓の城山ダムなど東側の津久井地域玄関口から城山を望むと、台形状の山塊の上辺にぴょこんと突き出て見えていた大スギは、正真正銘、津久井地域のシンボルでした。

在りし日の大スギです(2005年4月撮影)。

今日撮影した焼け跡です。

さらに、2010年撮影の、樹冠部を見上げたところ。

今日のようす。

木の上半分は北側斜面の曲輪跡に焼け落ちていました。

麓からも見えるくらいに突出した存在だったからには、これまで幾度も落雷に遭ってきたはずです。でも、幹が健康であれば樹冠を吹き飛ばされたりしたくらいで木全体が炎に包まれることもなかったのでしょう。しかし、今回の落雷は事情が違いました。老齢に達したこのスギは、すでに幹内が空洞だったようです。内側から空を見上げたところ。

消火作業により燃え残った下の部分も、樹幹は虫や病気により激しく浸食されてほぼ空洞だったことがうかがえます。

私は巨樹巨木に特別な思い入れがあるわけではないのですが、樹齢の推定もままならないようなこの巨木の最後は、じつに潔かったと、いとおしく思いました。ポンプとホースを足で担ぎ上げた消防のみなさんの懸命な消火活動もありますが、山火事を起こすこともなく、人的被害も出さず、そもそもここまで弱りながらも、土砂崩れとともに根こそぎ倒れることもなく、天寿を全うしたといえるのではないでしょうか。もし、生き残った根から萌芽することがあっても、それは遺伝子が一致していようとも大スギという存在とは別物です。大スギは、確かに今、巨木としての任を降りたわけです。お疲れ様でした。

これからしばらく、この大スギは雷という不可避の自然現象の無慈悲で圧倒的な威力を私たちに知らしむべく、ここに遺骸をさらし続けることでしょう。

(生物担当学芸員 秋山)

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