教科書のようなマント群落

博物館お隣の樹林地は、一部分が遊歩道など整備されて出入りできるようになっています。しかし、かなりの面積を占めるのが、フェンスで囲まれて立ち入りが制限されている区域です。そんな一画で下の写真のような風景を見ることができます。

道路際で年に2回ほど草刈りされる区域の向こう、樹林地の中心側の林縁です。日当たりの良さからクズが盛大に絡みついています。まるで、スカートの裾のようです。森林生態学の用語でこのような林縁を「マント群落」あるいは「そで群落」と呼びます。手前はススキやオギが高く伸びているため、いっそうなだらかな曲面を描いています。まさに教科書通りという断面図が描けそうです。
マント群落のように、異なる環境の境界がゆるやかに移行していくほど、生物多様性が高い空間が形成されると言われています(エッジ効果)。ただし、里山や都市部の樹林地では、マント群落の発達とはすなわちヤブ化することなので、風通しや日当たりが悪くなることを意味します。景観上も、必ずしも良好な環境とは言えません。なかなか判断の難しい景観です。
(生物担当学芸員 秋山)

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