議論の土壌

もう一つ、ドイツで感じたことを書き留めておきます。
ツアー3日目、ホームステイでお世話になったお宅には、14才の娘さんがいました。とても聡明で、わけのわからない日本人と一所懸命コミュニケーションをとろうとしてくれたことは、ドイツからのブログ最終便でも書いたとおりです。その聡明さを物語るエピソードをひとつ。
ホームステイで泊めて頂いた明くる日、ご家族と一緒に近くのシェーンハウゼン城へ行きました。
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ここは旧東ベルリンのパンコウ地区にあり、18世紀に入ってからフリードリヒ大王(2世)の離宮として整備されました。不仲で知られた妃のエリザベートが夏を過ごす場所であり、大王自身はほとんど足を向けなかったそうです。宮殿中央の1室には、見事なロココ調の装飾が施された部屋があり、往時の宮廷生活を偲ぶことができます。
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一方、その隣室に入ると時代は一気に進みます。20世紀の東西冷戦時代には東ドイツ大統領の居城として、数々の歴史的会談の舞台ともなった部屋。ホー・チ・ミン、カストロ、カダフィ、ゴルバチョフといった政治家達が国の行く末を左右する会談を行いました。中世から近代の歴史が凝縮した空間に、ちょっと頭がクラクラしてきます。
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じつはその解説を、14才の娘さんが私にしてくれたのです。大人のご家族は宮殿前の広場で飼い犬を遊ばせていたので、宮殿内部を観覧したのは私と娘さんだけ。ドイツ語で書かれた解説文をかみくだいて英語で説明してくれたのです。
さらに驚いたのは、次のシーンです。展示経路の最後の方で、監視員に何やら議論をふっかけているご老人がいました。歴史的な見解の相違や、ご老人が重要と思われていることがちゃんと紹介されていない、というようなことのようです(当然ながらドイツ語なので詳しくはわかりませんでしたが)。そこへ、娘さんがスッと自然に間に立って議論に加わったのです。10分ほど、お互い冷静に意見を述べあい、なあなあでもなく、紛糾するでもなく議論を終え、ご老人も家族と一緒に宮殿を後にしていました。
これには面食らいました。日本の中学生は、はたして大人と近代史について対等に議論できるでしょうか。ドイツでは、学校教育の中でもディベートをはじめとした議論のスキルを学ぶ教育プログラムがあるそうで、自分の意見を述べられるかどうかが成績にも大きく左右するそうです。主張が強く声の大きな子が好成績を上げることに疑問を持つ親もいるようですが、これも民主主義を追求するために必要な教育の一つということなのでしょう。
その娘さんが特に聡明だということもあるかもしれません。でも、ドイツには議論の土壌ができていることが、とても印象に残りました。
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飼い犬のヴィリー。私が寝ているベットに入ってきて、一緒に夜を過ごしました。
(生物担当学芸員 秋山)

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