博物館の正面入り口のアプローチに、かわいらしい花が咲いています。

ヌスビトハギの花
ヌスビトハギです。小さいながら、マメ科らしい立体的な花ですが、種名がちょっと物騒ですね。この植物は代表的なひっつき虫(果実や種子が動物の毛などにひっつく構造を持つ植物の総称)で、どうやら種名はこの果実に由来するらしいのです・・

ヌスビトハギの果実(秋に撮影)
果実の形が、盗人が抜き足差し足で歩く足跡に似ているから、というのが有力とされていますが、これは“日本の植物学の父”とされる牧野富太郎博士の類推が広まったものです。ほかにも、盗人が草むらを逃げる際、気づかないうちに衣服にくっついているから、という説もあります。なんとなく、こちらの方がしっくり気がします。
ヌスビトハギは博物館周辺の樹林地内にも多く、センサーカメラに映る動物にもたくさんくっついていることがあります。

背中にヌスビトハギの果実をたくさんつけたアライグマ(博物館の隣の樹林地に設置したセンサーカメラで撮影)
ところで、花の咲いた株の葉には、こんな食痕もありました。

葉を大きく丸く切り取ったあと
丸く切り抜いたようなこの食べ痕は、ハキリバチの仲間のものです。ハチの種類までは特定できませんが、成虫がこんなふうに葉をきれいに切り取り、巣材にするそうです。

かなり念入りに切り取られていたので、巣材としてお気に入りなのでしょう
ヌスビトハギは私たちも調査でちょっと草むらへ入ると、びっしりと衣類にくっついてくるのでやっかいです。手で払ったくらいでは取れないのですが、ウエットティッシュで拭きとると、驚くほどあっさりと取れます。これは以前、テレビで“裏ワザ”として紹介されていたもので、今では秋の観察会の定番ネタの一つです。
(生物担当学芸員)