タカの渡り

10月8日、市内緑区でタカの渡りを観察できるポイントに行ってきました。タカの渡りとは、夏鳥のタカの仲間、主にサシバやハチクマがこの季節に高空を滑空して渡る様子を観察するもので、バードウォッチャーの季節の風物となっています。
じつはこのポイントでは前日に100羽以上が飛んでしまっていたため、この日は待てども待てども飛びません。それでも1羽のサシバ(幼鳥)が旋回して高空へ昇るのが見えました。

サシバ 拡大したらお腹に太い縦の斑紋が見えたので、幼鳥です

複数のサシバが渡る時は集団で旋回するので、その様子を「タカ柱」と表現しますが、この日はとても遠い空で4羽がタカ柱を作ったのが見えただけで、前日見えたという壮大なタカ柱は見られませんでした。
それでもその後、成鳥が1羽、真上の空をスーっと滑空していきました。

サシバ こちらは成鳥です。青空に翼が透けてとてもきれいでした

これから何カ所か経由して翼を休めつつ、南西諸島まで飛んでいくはずです。「がんばれよ!」と観察ポイントにいたみんなで祈りつつ見送りました。
足元では、ツリガネニンジンや・・

ツリガネニンジン

カラマツソウが風になびいていました。

カラマツソウ

タカの渡りも終盤です。個人的には今年最後の観察になったので、数は少なかったものの、渡りのタカを見送ることができてよかったです。
(生物担当学芸員)

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紅白のミズヒキ

水引(みずひき)というと、祝儀袋などに結ばれた紅白、あるいは金銀の紐のことを指します。植物にもこの名が使われていて、ミズヒキというタデ科の植物が博物館のまわりにもたくさん生えています。花はとても小さいのですが、紅白のツートンカラーが美しく、長く伸びた花序(かじょ=花の配列の様子)を水引に見立てたものと思われます。

水引の花

花後に実った果実は、紅白が上下に分かれるので、上から見ると紅色ですが、下から見ると白く見えます。

ミズヒキ 上から見たところ

同じ株の花序を裏返して見たところ

このミズヒキには白花の品種も知られています。花に紅色の部分が無く、純白の花です。

ギンミズヒキの花

品種名は、ギンミズヒキと呼ばれます。こちらは上から見ても白いのが特徴です。

ギンミズヒキ 上から見たところ

さて、ここで少々紛らわしい種名を紹介します。キンミズヒキ(バラ科)です。ギンミズヒキのすぐそばで咲いていたキンミズヒキの花はこちらです。やはり、長く伸びた花序にたくさんの黄色い花がつきます。

キンミズヒキの花

植物の世界では、黄色をしばしば「金」と表現します。やはり金と呼んだ方が縁起が良さそうだからでしょう。いま、芳香を放っているキンモクセイもその一つです。それにしても、水引では金銀とセットで扱われるのに、キンミズヒキとギンミズヒキは属する科が異なる縁遠い植物です。一方で、どちらの植物も“ひっつき虫”でもあります。キンミズヒキは果実が実るとこんな感じです。

キンミズヒキの果実

動物の毛や衣服にしっかりひっつきます。ミズヒキやギンミズヒキはというと、ひっかかる程度であまりひっつく意思を感じません。

ミズヒキの若い果実

いずれにしても、古くから身近で親しまれてきたからこその種名なのは間違いありませんね。
(生物担当学芸員)

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大学の野生動物学実習を実施

10月4日、毎年恒例となっている、麻布大学動物応用科学科の実習「野生動物学実習」を当館で実施しました。麻布大学と相模原市は包括連携協定を結んでおり、こうした実習を積極的に受け入れています。
博物館での実習ですから、まずは生物多様性情報の蓄積のための地域博物館の役割と標本の意義について室内でレクチャーを行いました。その後、野外へ出て昆虫採集を行います。

昆虫採集の基本について説明を受けて、虫採りに出発!

捕虫網を振るのは小さな頃以来、という学生さんも多く、楽しみながら採集をしました。

捕虫網の扱いにもだんだんと慣れていきました

恐る恐る網から取り出します

小さなものから大きめのものまで、いろいろな昆虫を採集できました。

ヒメクダマキモドキ 見事な保護色ですが、この後採集されました

午後からは、採集した標本を使っての実習です。形態をよく観察して、同じ仲間と思われるものの組み合わせを作ります。そして、その共通点に着目してスケッチをしました。

班の中でディスカッションしながらより分けていきます

真剣にスケッチしています

科学的なスケッチとは、見栄えよりも、客観的な視点、つまり、その特徴をしっかりととらえて表現することが求められます。そしてその観察から導かれた特徴や着目点について、班ごとに発表してもらいました。

着目した共通点などを発表

図鑑やインターネットなどで調べた知識ではなく、目の前の標本から得られた情報に絞り込んで発表するのが重要なところで、みなさんそれをしっかりとこなしてくれました。
その後、当館の動物分野の学芸員から、自身が昆虫で新種記載した論文を紹介してもらい、じつはこの実習の内容の延長線上にそうした研究があることを示しました。
最後に収蔵庫を見学し、標本を永久保存する環境や施設を実際に体感してもらいました。

収蔵庫の見学

科学的な観察眼で標本を扱うことについて、地域博物館の使命とともに学べたことと思います。
(生物担当学芸員)

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秋の河原で

9月末、相模原市内の相模川河川敷へ行きました。目的は、カワラハハコやカワラノギクの生育状況を確認するためです。カワラハハコは咲き出していて、かわいらしい白い花を見ることができました。

カワラハハコの花

ただ、以前と比べて生育株数がとても少なくなっているので、カワラノギクと同様に増殖のための手立てが必要かもしれません。
カワラノギクの保全圃場では、順調に育った株がたくさんのつぼみを付けていました。

カワラノギクのつぼみ

付近では、アキノノゲシも淡い黄色の花をつけていました。

アキノノゲシ

段丘崖(だんきゅうがい)の中に白っぽく光るものがいたのでよく見ると・・ミサゴでした。

ミサゴ

一度真下の水面へ急降下して飛び込みましたが、魚は獲れず・・また元の枝に戻りましたが、そのうち対岸へ飛び去りました。

飛び立つミサゴ

ミサゴを見ていると、目の前をチィーと鳴きながらカワセミが飛びました。

水面に映る姿も美しいカワセミ

秋とはいえちょっと蒸し暑い日でしたが、河原の秋を楽しむことができました。
(生物担当学芸員)

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企画展「30年の歩みを未来へ」は明日(9月28日)まで!

現在開催中の企画展「相模原市立博物館 30年の歩みを未来へ」は、いよいよ明日、9月28日(日)で会期の最終日を迎えます。

会場入口

会場順路の最後に設置したメッセージボードは、2か月以上の会期のあいだにいただいたたくさんのメッセージで、とてもにぎやかになりました!

博物館へのメッセージボード

特別展示室で同時開催中の博物館実習生展示も、同じく9月28日(日)までで終了です。
まだご覧になっていない方は明日、ぜひ当館まで足をお運びください。
(動物担当学芸員)

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秋花粉がピークに

8月下旬から博物館周辺で咲き出したオオブタクサは、すでに花期のピークを過ぎています。

3メートル以上の高さに育ったオオブタクサ

といっても、まだまだしっかり咲いている株もあります。

開花中のオオブタクサの花 花弁が無いのは、風媒花の証拠

オオブタクサは秋花粉(秋に風で花粉を飛ばす、アレルゲンとなる花粉)の代表種の一つです。秋花粉はしかし、これで終わりではありません。バトンタッチするかのように、カナムグラが咲き出しています。

カナムグラの花(雄花)

風で揺れるたびに、大量とは言えませんが、煙のように花粉を飛ばします。

垂れ下がった葯から花粉が飛び出します

春先のスギ花粉と異なり、山全体から大量の花粉を飛ばすわけではありません。しかし、秋花粉はいずれも草本植物で、身近な雑草です。上に挙げた2種の他にも、ヨモギの仲間やイネ科の雑草など、この季節に花粉を飛ばす雑草はたくさんあります。ご近所から飛んでくる花粉は、スギ花粉と比べて量は少なくても要注意です。この季節に眼鼻がグズグズする方は、春同様の花粉対策をしましょう。
さて、そんな目がかゆくなるような写真ばかりではいけませんので、秋らしい植物の写真も紹介します。こちらは博物館前の歩道沿いに咲いている、ツルボです。

ツルボ

クローズアップすると、繊細で美しい花です。

ツルボの花

ドングリもだんだん大きくなってきました。いよいよ、実りの秋もやってきます。

コナラのドングリ

やっと秋めいてきたと思えば、10月がすぐそこまできています。秋は順調に進んでいくのか、まだ目が離せません。
(生物担当学芸員)

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市街地の猛禽

先日、相模原市役所の近くを歩いていたら、ドバトの羽根がまとまって落ちていました。

地面に散らばっていたドバトの尾羽と風切羽など

これは、猛禽類のタカなどの仲間が捕らえて、食事場所まで運ぶために大き目の羽根を抜き取った痕です。なぜそこまで判断できるかというと、上の写真の他の場所にも翼の羽根(風切羽)や尾羽が散らばっていたからです。ネコなどの哺乳類が鳥を捕まえると、翼を引きちぎったような痕や、内臓だけ食べたような食べ痕が残りますが、このように羽根がまとめて抜かれた状態で残ることはありません。
ところでこの場所は、付近に高層マンションやスーパーなどの店舗が立ち並ぶ場所です。いったい何の種類がハンティングしたのか知りたくて、翌日、早朝に現場へ行ってみました。すると、近くのアンテナに猛禽類がとまっていました。

アンテナにとまるツミのメス

ツミのメスです。日本で最小のタカで、オスはハトより小さく、メスでもハトと同じくらいのサイズです。近年、都市部への分布拡大が著しく、市役所周辺でも毎年繁殖しています。まず、候補となる猛禽の一つがあっさり見つかりましたが、ツミの食べ物としてドバトは少々大きすぎます。スズメやメジロをよく捕食していることは知られていますが、ドバトも捕食するのでしょうか。

飛び去る時のツミ

しばらく観察していると、ビルの谷間をスッと飛ぶチョウゲンボウが見えました。

チョウゲンボウ(別の日に別の場所で撮影)

チョウゲンボウも、ハトくらいの大きさのハヤブサの仲間です。これも、鳥を捕食することが多い鳥ですが、市街地ではスズメやツバメ、ハクセキレイなどを捕食するものの、ハトを捕らえたという記録は見つかりませんでした。チョウゲンボウは、ツミに先んじて都市化した鳥です。市役所周辺でも数十年前から見られていて、高層建築物で繁殖しています。ドバトを餌資源として活用していてもおかしくはないと思いますが、やっぱりちょっと大きすぎます。
ドバトを食料としている猛禽類の代表はオオタカやハヤブサです。冬は市役所付近でも見られることがありますが、この季節に見ることはあまりありません。結局、最初に見つけたドバトの羽根が、誰が捕らえたものかはわかりませんでした。いずれにしても、この季節にこの場所でドバトを捕らえた猛禽がいるという事実がわかったので、引き続き調べてみようと思います。
(生物担当学芸員)

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生きものミニサロン「ちょっとマニアック!ねこじゃらしを調べよう」を実施しました

9月20日、毎月恒例の生きものミニサロンを実施しました。今回のテーマは、ねこじゃらしです!

ねこじゃらし、ことエノコログサの仲間

今ちょうど、博物館の駐車場の一画では3種類のねこじゃらし=エノコログサの仲間が生えています。これをちょっとマニアックに観察しようという内容です。
館内エントランスで簡単な説明の後、駐車場へ向かいますが・・正面アプローチの先にこんなものが!

コブシの鞘(さや)と果実

春にたくさん花のを咲かせていたコブシの果実です。例年ならちょうど今頃、鞘(さや)から真っ赤な果実を覗かせているのですが、猛暑のせいか黒くなって地面にたくさん落ちていました。これは、ちょっと遊ばないともったいないということで・・

コブシの果実といえば、こんな遊びが

果実をそっと引っ張ると、珠柄(しゅへい)と呼ばれる繊維質のものが伸びて、鞘からぶら下がります。切れやすい繊維なので、それをどこまで伸ばせるか、みなさんで競いました。5cm以上伸ばせた人も!
そして、いよいよ本番の、ねこじゃらし観察です。

約30名の参加者がみんなでねこじゃらしを観察

ここに生えているのは、アキノエノコログサとエノコログサ、エノコログサの変種であるムラサキエノコロです。ムラサキエノコロは芒(のぎ=穂のまわりの毛)が紫色なのですぐにわかります。アキノエノコログサとエノコログサはちょっとマニアックです。下の図をみなさんへお配りしました。

小穂の違い、わかるかな?

小穂(粒の一つ)の大きさと形が異なります。これをルーペでじっくり観察します。

真剣に観察しています

ねこじゃらし大好き!と教えてくれたお子さんが、見つけたムラサキエノコロを握りしめてダッシュしてきました。

見つけたー!

エノコログサ観察カードをお配りして、採集したそれぞれの穂を張り付けてもらいました。

観察カードの右端には空欄が・・

じつは空欄になっているもう1種、キンエノコロはここにはありません。河原などによくある植物なので、ぜひご自分で見つけてみてください!というお題を投げかけて終了。
この内容は、じつはかなり本格的な植物の識別なので、おもしろがってくれるかな?と少し不安だったのですが、そんな心配は不要でした。約30名の参加者のみなさんがとても熱心に、そして楽しそうに取り組んでくれました。
次回は10月18日(土)12時からとなります。お楽しみに!

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【企画展イチ押し資料】縄文土器

現在開催中の企画展「相模原市立博物館 30年の歩みを未来へ」の展示物から、考古分野はイチ押し資料として「縄文土器」を紹介します。

展示中の土器は、「勝坂式土器」と「加曽利E式・曽利式土器」の2つのグループに分かれます。

勝坂式土器 約5,000年前のものです。

注目してほしいのは、真ん中の口の部分に輪がついている土器。

チラシにも掲載している土器です。

アップにしてみましょう。

縄文すなわち「縄を転がした文様」がありません。縄文土器なのに。
特徴的なのは粘土紐を貼りつけて、そこを突き刺して文様としています。

また、加曽利E式・曽利式はこちら。

今から約4,700年前、加曽利E式(左・中央)、曽利式土器(右)です。

真ん中の小ぶりな土器を除くと、縄文がつけられ、なにやら渦巻のようなものもあります。中央の土器を拡大してみます。

縄文が左下がりに見えます。渦巻もしっかりありますね。

これは縄文ですね。繊維などを縄にしてそれを転がして、文様としています。

 

相模原の遺跡は縄文時代が多く、市内の色々な場所で縄文土器が出土しています。今回の展示中の土器は、その中から6点を選抜したもので優品ばかりです。

大きさ、形、すべてが違います。

縄文土器は当時の人々が作り、使用したものです。同じものはなくすべてが唯一無二です。縄文土器の形やその文様など、縄文人の造形をぜひ間近でご覧ください!

(考古担当学芸員)

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日本鳥学会(札幌)に参加

9月12日から15日まで、札幌市の北海学園大学などを会場に行われた日本鳥学会に、当館学芸員が参加しました。また、ポスターセッションにおいて、当館のフクロウ食性分析グループが行っている調査結果を、協働で実施している公益財団法人日本鳥類保護連盟の職員と連名で発表しました。タイトルは「巣箱で営巣したフクロウの餌内容について」です。

コアタイムのディスカッションの様子(発表は日本鳥類保護連盟の職員)

フクロウ食性分析グループは、当館を拠点に活動する「さがみホネホネ団」の分科活動として実施しています。この活動では、日本鳥類保護連盟が全国に設置しているフクロウの巣箱の、繁殖後の残渣物を回収、グループメンバーが動物の骨や羽根といった餌動物の痕跡を拾い出し、種類や数を割り出しています。今回の発表では、巣箱の設置場所の環境により餌動物が哺乳類から鳥類、両生類と多岐にわたり、その比率も大きく異なることが示され、多くの方の関心を呼びました。分析作業は博物館の市民グループの活動として今後も継続するので、今回の発表が活動のモチベーションを高めてくれることでしょう。

そして、せっかくの北海道なので、学会の合間に野鳥観察へ出かけました。やっぱり、北海道と言えばシマエナガです。

シマエナガ 10数羽の群を長い時間観察できました

じつは、本州のエナガ(シマエナガとは亜種関係)は都市化した野鳥のひとつに数えられるくらい、街中の公園などでも1年を通してよく見られる鳥です。しかし、北海道のシマエナガは都市化していないため、それほど手軽に見られる野鳥ではありません。

小さくて動きが激しいため、撮影しにくいのは本州のエナガと同じです

今回も、広大な森林公園を歩き回って、運よく2回ほど群れに遭遇できた程度です。北海道の地元でも見たことない人が多い鳥です。
こうした遠い地域の自然に触れられるのも、学会参加の楽しみの一つです。
(生物担当学芸員)

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