蝿毒草

生物学では、種名は通常カタカナで表記します。漢字の方が意味が分かりやすいし読みやすい、とも言われますが、漢字には複数の読み方があり混乱しやすいことと、読みが先で漢字は後から充てたものがほとんどなので、漢字の表記そのものが揺らぎます。そのため、カタカナで書くのが通例となっています。
ただ、この植物について言えば、揺らぎようのない読みと漢字、そして意味と言えます。

ハエドクソウ

ハエドクソウ(蝿毒草)です。花が小さくてあまり目立ちませんが、拡大するとなかなかの造形です。

ハエドクソウの花のアップ

かつて、この植物の根を煮詰めた汁を使ってハエ取り紙を作ったことからこの名があるそうです。今はそうした利用はほぼ無くなっていますが、ハエドクソウは博物館のまわりの樹林でもたくさん咲いています。
じつはこのハエドクソウ、とてもよく似た紛らわしい植物があります。ナガバハエドクソウと言って、ごく近い仲間なのですが、花が少しだけ違います。

ナガバハエドクソウの花のアップ(上唇弁はうさぎの耳型)

上の写真はナガバハエドクソウの花で、上唇弁(じょうしんべん:上側の花弁)がウサギの耳のように2つに割れています。ハエドクソウの花のアップ(上から2枚目)と比べると、ハエドクソウは4つに割れているように見えます。たったこれだけの違いなのですが、植物の世界では大きな違いです。さらに、この2種は花の時期が3週間ほど違い、ナガバハエドクソウの方が早く咲きます。他にも、葉のつきかたや葉の付け根の形などもちょっと違いますが、上唇弁ほどはっきりとした違いではありません。
と・・思っていたのですが、実は先日の陣馬山の調査で・・

どちらか迷う、ハエドクソウの花

どっちともつかない花があったのです。ちょうど花期がオーバーラップしていて、どちらも咲いていたのですが、上の写真の花はナガバハエドクソウとハエドクソウの中間的な形です。葉など他の特徴がハエドクソウ的だったのでハエドクソウとしましたが、ちょっとスッキリしませんね。
でも、こんな「図鑑が通用しない」個体がいるのは野生生物の世界ではあたりまえですし、そこがおもしろいところなのです。

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