「写真で見る相模原~昭和・平成の生活と民俗~」(No52・サツマイモの苗床)

かつて正月から三月までは比較的畑での作業がない農閑期で、ヤマから落ち葉を掻いたり、家で藁細工などが行われました。そんな中、三月節供頃までにしなければならなかったのがサツマイモの苗床(サツマグラ)作りです。

サツマグラは、本シリーズでは「No.4サツマイモ植え」でも紹介しており、床に種芋を伏せ込んで、そこから出た苗(芽)を五月中旬から切り出して畑に植えていきます。

次の写真は、南区東大沼の旧家の庭にあったサツマグラで、竹で回りを囲ったところに麦カラを立てており、中にヤマから取ってきた落ち葉を踏み込んで発酵させます(昭和58年[1983]撮影)。

サツマグラに限らず落ち葉などから作る堆肥は、畑に用いる大切な肥料でした。次の写真は同じ東大沼の家ですが、積んである堆肥に雨などを当てないように大きな屋根を掛けています。左隣には前の写真のサツマグラが見えます。

文化財記録映画第6作「相模原の畑作」では、中央区田名でサツマグラを作る様子を撮影しています(昭和63年[1988]2月9日)。まず積んだ堆肥の回りに杭を打ち、杭に竹を渡して藁を結び付け、さらに堆肥を足して種芋を伏せ込みます。

サツマグラは温度管理が難しく、あまり発酵して温度が高くなりすぎると種芋がふける(腐る)ので、熱ければ上側の堆肥を取って薄くするなど、気を配ったと言います。

最後の写真は、平成18年(2006)1月7日に南区古淵で撮影したもので、以前ほどサツマイモを作ってはいないため小さいものになっていますが、回りを竹で念入りに囲っています。

4月になると、畑では大麦・小麦の管理、水田がある地区ではタウナイやシロカキ、さらに養蚕の準備など、いよいよ春からの農作業が始まって忙しくなっていきます。大量のサツマイモを作っていたこともあり、サツマドコはこの時期の大切なものとして記憶されています。

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2011年3月11日から10年 その3 温かい食べ物

東日本大震災の時、銀河連邦として災害支援協定を結んでいる相模原市から岩手県大船渡市への支援隊の一員として、2011年3月19日から24日まで大船渡市に滞在した経験を綴るシリーズの3回目です。

前回、大船渡市の職員さんが「普通のカレーが食いてぇなー」とつぶやいたことを書きました。電気、ガス、水道が止まった中で生活していると、何よりありがたかったのは温かい食べ物です。相模原市の支援隊は、プロパンガスのボンベとコンロを持ち込んでいたので、朝晩はお湯を沸かすことができました。そこでレトルトのカレーやカップ麺をつくり、さらに、そこへ炊き出しでいただいたおにぎりをぶち込んで食べます。本当に美味しかったです。

相模原市の支援隊の詰め所 電気がストップしていたので、ヘッドランプが手放せなかった(2011年3月21日)

特にこの支援活動中、カップ麺のありがたさをこれほど感じたことはありませんでした。神奈川へ戻ってからしばらく、いや、10年経った今でも、カップ麺を見ると感謝の気持ちが自然と沸いてきます。一方で、震災から10日以上経ったある日、支援物資として、トラック1台分のカンパンが届きました。

支援物資の搬入(写真の物資はカンパンではありません)2011年3月21日 大船渡小学校体育館

正直言って、「今はこれじゃないな」「とてもじゃないけど、これを食べてと被災者のみなさんへ配れない」とその場にいた人たちと話しました。カンパンは保存性が良く、非常時のための備蓄食料としてとても優秀です。それを理解した上でもあえて言えば、被災地でカンパンを食べることができるのは、補給が絶たれた状況の被災当日からせいぜい翌日くらいです。まだ寒い季節だったからということもありますが、やはり火を通した食べ物、たとえそれがお湯を入れるだけのカップ麺であっても、温かい食べ物が必要でした。
温かいかどうかは別にしても、炊き出しのおにぎりも、お米がよいのか、お水がよいのか、その両方かもしれませんが、とても美味しかったです。

炊き出しのおにぎり(大船渡小学校体育館で 2011年3月21日)

大船渡市役所で炊き出しに参加されている地元の方も、もちろん被災者です。そんなおひとりの女性がまわりの方に話しているのを聞きました。
「うちはおばあちゃんが津波に流されちゃってね。でもここに来ていれば気がまぎれるから来ているの。」
そんな言葉を聞いていたことも、おにぎりの味を特別なものにしていたのかもしれません。

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横山坂遺跡に遺跡の説明板が設置されました。

中央区陽光台の陽光台1丁目公園は「横山坂遺跡」という今からおよそ2万年以上前の旧石器時代の遺跡です。
令和3年3月28日に、遺跡の説明板が地元の陽光台一丁目自治会により建てられました。

陽光台1丁目公園(北西から)

横山坂遺跡説明板

横山坂遺跡説明板

陽光台1丁目公園(googleマップ)

屋根が付いており、柱も太く立派なものです。説明文もわかりやすく、昭和47年の発掘調査の写真が多く盛り込まれていました。
また、公園内なので小さいお子さんから大人まで、みんながいつでも見ることができます。

横山坂遺跡は昭和47年に宅地造成に伴い、記録保存のための発掘調査が行われました。
その結果、旧石器時代の狩りの道具である、細石刃(さいせきじん)、石槍(いしやり)、ナイフ形石器などが400点近く見つかりました。
開発事業に伴う本格的な旧石器時代の調査としては、市内で最初のものであり、相模原市における埋蔵文化財保護の観点からも重要な遺跡です。

この説明板の設置を記念し、陽光台公民館では、市教育委員会文化財保護課主催のミニ展示が設置され、当館が所蔵する横山坂遺跡から出土した石器が3月27日(土)から5月5日(水・祝)まで展示されています。

公民館の入り口、右側にあります。

横山坂遺跡のミニ展示

壁面パネルとガラスケース内に石器が展示され、当時の発掘調査の状況やどのような石器がみつかったのか、解説しています。
陽光台公民館(googleマップ)

陽光台一丁目自治会の方々の遺跡を大切にする姿勢は非常に重要です。それは遺跡の重要性を地元の方々が地域の貴重な歴史を物語るものとしてしっかり認識されているからであり、行政としても地元の方々と共に文化財保護を進めていく必要があります。
横山坂遺跡のように、過去の貴重な文化財はこれからも先に残していかなければならず、さらにその内容についても後世に伝えていくべきものです。

これから暖かくなり、春本番となります。ちょっとしたお出かけとして陽光台一丁目公園と陽光台公民館を訪れてはいかがでしょうか。

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クサグモ現る(2021)

過去に何度か、春先にクサグモを最初に見かけた日のことをこのブログに書いています。
日付を確認すると2012年4月17日、2013年3月28日、2019年3月21日、2020年2月29日。
2月末から4月中旬までばらつきがあります。「気づいた日」なので、必ずしもその年の状況を正確に表しているとは言い切れないところがありますが、すべて同じ地点での観察です。
さて今年はどうかというと、初めて網を確認したのが3月10日。

クサグモの網(3/10)

網の上にいる個体を見かけたのは3月11日でした。

体長2mmほどのクサグモの幼体(3/11)

観察している植え込みが昨年大きく剪定されていたので、今年は出現しないかと思っていましたが、ちゃんと例年どおりの時期に現れました。

網の上を歩き回るクサグモ幼体。腹部先端の糸いぼを大きく開いて糸を出しているのがわかります(3/26)

今、だんだんと気温も上がり、多くの個体が活発に動き始めています。

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小学生のカイコの学習成果を展示中

博物館で昨年初夏に学習支援を行った、カイコを用いた学習の成果が博物館エントランスに展示されています。
こちらは光が丘小学校(中央区)3年1組のみなさんによる展示です。

光が丘小3-1の展示

ランプシェード、うちわ、コースター、そして5齢幼虫の拡大模型!

カイコ(5齢)の拡大模型

とてもよくできていて、そのまま博物館の資料にしたいくらいです。
さらに、観覧された人へのリーフレットも充実しています。すべて、児童のみなさんによる手彩色!早い者勝ちですので、ぜひ展示をご覧になって素敵なリーフレットを入手してください。

何種類ものリーフレットが用意されています

光が丘小学校3年1組では、一クラス(20名)でとてもたくさんのカイコを飼育し(1000頭以上!)、カイコについての調べ学習や、繭を利用した様々な工作、そして、残った蛹の利用まで考えて実践してくれました。

そして、こちらは大島小学校(緑区)3年生による展示です。

大島小学校3年生による展示

繭の利用方法の実践例として、繭から絹タンパクの一つであるセリシンを取り出して、それを石けんにしてくれました。

シルク入り石鹸

シルク入り石けん!お肌にとても良さそうです。しかも、美しいですね。
さらに、繭人形なども作り、学芸員へのお手紙も一緒につけてくれました。

心のこもったお手紙と、かわいい繭人形

みなさんとても熱心にカイコと向き合い、カイコの命について真剣に考えてくれたようです。すばらしい学習成果は、春休み中(大島小は31日まで)展示されていますので、ぜひご覧ください。

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プラネタリウム寄席「ほしぞら亭」無料上映始まりました!

3月27日から、プラネタリウム寄席「ほしぞら亭」の無料上映が始まりました。
今年1月17日に開催予定だった同タイトルのイベントが、新型コロナウイルスの感染拡大により中止となったため、収録を行いました。その様子はこのブログでもお伝えしました。

その映像を、プラネタリウムのドームに投影します。入場は無料で、3月27日以降の土曜日と日曜日、そしてゴールデンウイーク中の4月29日、5月1日から5日までのお昼の12時00分(3/27,28,4/3,4は12時10分)から1演目ずつ上映します。
3つのタイトルをぜひお楽しみください!

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ワカバグモ

博物館正面の植え込みで撮った写真です。
この中にクモがいるのがわかりますか?

よーく探してみてください。中央やや右上(写真をクリックすると拡大されます)。

ワカバグモ(メス亜成体)体長10mm程度。オスは目の周りなどが赤くなります。

名前はワカバグモ。その名の通り全身緑色をしています。
網を張らずに徘徊して獲物を探します。木の葉の上などで見かけます。
アップにして目の配列を観察してみます。

目のあたりを拡大しました。

8個の単眼が、まるで全方位をカバーするように並んでいて、死角があまりなさそうです。
獲物にされる側にしてみたら、たまったものではないかもしれませんね。

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春まっさかりの楽園へ

市内に自生する絶滅危惧植物の現況は、できるだけ毎年確認しています。春に咲くものが多いのですが、今年はサクラの開花が早めなため、年度末の慌ただしい中、3月24日にいずれも市内緑区の自生地を巡回してきました。まずは、オキナグサの自生地です。

オキナグサ

楽園のような場所で、そばにはオカオグルマも咲いています。

オカオグルマ

地元の方が草刈りなどの手入れをしてくださっているおかげで維持されています。
次に訪れたのは、カタクリの自生地です。花はすでにピークを過ぎていました。

カタクリ

ここは県内唯一のギフチョウの発生地(県天然記念物)に近いので、ギフチョウがどこからともなく飛んできて、タチツボスミレにとまって吸蜜していました。

ギフチョウ

さらに別の場所へ移り、いくつかの早春植物を確認しました。こちらはアマナです。

アマナ

いずれも、地元の方や土地の所有者による草刈りなどの管理が行われることで維持されている場所です。維持管理に携わる方々へ敬意を抱きつつ、今年も無事に確認できたことに安堵しました。

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シリーズ「相模原ふるさといろはかるた」で見る名所紹介㉝ 陣馬山

高層ビルや 富士山も 陣馬山から一望に

(こうそうびるや ふじさんも じんばさんからいちぼうに

標高855mの陣馬山は、相模原市北西部、東京都八王子市との境界に位置しています。陣場山とも表記され、戦国時代、北条氏と武田氏が陣を構えた場所だったことが名前の由来とされていますが、諸説あります。

中央のなだらかな山が陣馬山

山頂に立つ白馬の像が登山者を出迎えてくれます。この白馬の像は、1960年代後半に京王帝都電鉄(現在の京王電鉄)が観光地として売り出すために建てたものです。

陣馬山山頂

陣馬山山頂に立つ白馬の像

神奈川県立陣馬相模湖自然公園、東京都立高尾陣場自然公園に指定されており、関東の富士見百景、かながわの景勝50選、八王子八十八景に選ばれています。山頂からは360°の眺望を楽しむことができます。

陣馬山山頂から北東を望む

陣馬山山頂から南を望む。丹沢山地の山々。

陣馬山はほとんどが千枚岩(せんまいがん)からできています。千枚岩は板状に薄く剥がれやすい性質を持つことから、その名前がつけられました。千枚岩はもともとあった岩石が、地下深くで高い圧力を受けて別の岩石に生まれ変わったものです。陣馬山で見られる千枚岩の多くは、泥が固まってできた泥岩(でいがん)が変化したものです。陣馬山の千枚岩は神奈川県最古の岩石の一つです。

陣馬山登山道に見られる千枚岩

陣馬山の麓、沢井川で見られる千枚岩

 

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色々な石展⑧ 「緑色の石」コーナー

閉会した開館25周年企画「色々な石展」について、今回は、8「緑色の石」コーナーを紹介します。

前回までの記事はこちらから。
1「色々な石」コーナー
2「透明な石」コーナー
3「白色の石」コーナー
4「黒色の石」コーナー
5「青色の石」コーナー
6「黄色い石」コーナー
7「赤色の石」コーナー

8「緑色の石」コーナーの展示の様子です。

「緑色の石」コーナー

緑色凝灰岩(りょくしょくぎょうかいがん)は名前のとおり緑色をした凝灰岩で、海底火山噴火の堆積物が岩石になったものです。丹沢山地に広く分布しています。

緑色凝灰岩

緑色片岩(りょくしょくへんがん)は玄武岩(げんぶがん)などが地下深くで高い圧力と熱を受けてできた岩石です。埼玉県の長瀞(ながとろ)の岩畳で見られます。

緑色片岩

カルシウムとクロムを主成分とするザクロ石(いし)は灰クロムザクロ石と呼ばれ、緑色をしています。灰クロムザクロ石は大きな結晶になることはまれです。蛍石(ほたるいし)は鉄を精錬するときに利用されています。

灰クロムザクロ石(左)と蛍石(右)

藍晶石(らんしょうせき)には緑色をしたものもあります。

藍晶石

8月の誕生石であるペリドットの鉱物名はカンラン石(せき)です。ペリドットは宝石名です。

カンラン石

ほとんどカンラン石からできている岩石がカンラン岩(がん)です。カンラン岩は地球のマントルを構成している岩石です。

カンラン岩

エメラルドは宝石名で、鉱物名は緑柱石(りょくちゅうせき)です。緑色のものをエメラルド、水色のものをアクアマリンと呼んでいます。

緑柱石(エメラルド)

次回は、9「金色の石」コーナーを紹介します。

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