博物館収蔵資料紹介~最近見ない調理具

今回取り上げるのは、かつてはよくあったのに、最近は台所であまり見かけなくなった調理用の道具です。

最初の写真は、「鰹節(かつおぶし)削り」です。鰹節は昆布(こんぶ)などと並び、和食には欠かせない出汁(だし)用の食材ですが、引き出しの付いた箱の上に鉋(かんな)の刃を乗せ、手で鰹節を押さえて前後に動かしながら削っていくと箱の引き出しの中に削られた鰹節が溜まります。

中央区星が丘の方から寄贈いただいたもので、写真で鉋の上に置いた鰹節も一緒に寄贈されました。朝起きると、味噌汁などに使う鰹節を削ったという思い出を持つ方も多いのではないでしょうか。                  

 

次の写真は、胡麻(ごま)やとろろ等をすりつぶしたり、和え物(あえもの)を混ぜたりするのに使う「すりばち」と「すりこぎ」(収集地・中央区田名)です。すりばちは陶製の鉢で、内側に細かい筋目が付いています。そして、木製のすりこぎでかき混ぜていきます。これらが広く普及したのは中世からで、すりつぶして食べる調理法は新しい食文化をもたらしたと言われています。                     

 

ところてんは、暑い夏場の食べ物として親しまれ、原料となる「てんぐさ」を煮だして固めたものを麺(めん)のように切って、酢じょうゆなどで食べます。次の写真はところてんを麺状に切る「ところてんつき」(緑区大島)で、箱の口から固まったところてんを入れて棒で突くと、箱の先に格子状の金属の網が張ってあり、細長く切れて押し出されてきます。

ところてんつきは、どの家にもあったわけではなかったようですが、それでも博物館には他の家から寄贈されたものがいくつかあります。                                    

 

今回紹介したのはいずれも調理の時に使う道具ですが、少し前には現代のように多くのものを手軽に買って食べるのではなく、自ら手間をかけて作っていた時代があったことを教えてくれます。

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カエンタケ

7月7日、市内緑区でカエンタケが出ているとの情報があり、調査に行ってきました。丘陵地の遊歩道の真ん中に、真っ赤なカエンタケが出ていました。

カエンタケ

形は様々なで、大きなもの(と言っても高さ5センチメートルほどですが)人の手のひらが地面から突き出たようにも見えてちょっと不気味です。このキノコは猛毒で、食べると死に至ることもあるそうです。また、触れただけでも激しい炎症を起こすことがあると言われる危険なキノコです。

カエンタケ

事故があってはいけないので、今回見つかったカエンタケはすべて採集し、博物館の標本にすることにしました。

コナラの根から4株見つかりました

アリがカエンタケの上に登っていましたが、アリは触れても問題無いようですね。

アリがカエンタケに登っていました

ちなみにカエンタケは、かつてかなり珍しいキノコでした。それがここ数年、県内でもあちこちで見つかっています。どうやら、ナラ枯れと関連があるようで、ナラ枯れ病に侵された樹木について出ています。今回のカエンタケも、ナラ枯れ病のコナラの根から出ていました。今後、市内の緑地で頻繁に見られる可能性があります。このようなキノコを見つけても絶対に触らないよう、お気を付けください。

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段丘礫、出張中!

相模原市立博物館所蔵の段丘礫の標本が、神奈川県立生命の星・地球博物館へ出張中です。令和4年7月16日から11月6日まで開催される特別展「みどころ沢山!かながわの大地」で展示されるためです。

相模原(相模野)台地は相模川沿いに発達した階段状の地形である河岸段丘(かがんだんきゅう)が特徴です。相模原台地の河岸段丘は段丘礫層(だんきゅうれきそう)と関東ローム層で構成されています。

上空から見た相模原台地。画面中央やや左を流れるのが相模川。上流方向を望む。

画面下半分が段丘礫層、上半分が関東ローム層。

段丘礫層はかつての川原の石ころの地層で、数万年前に相模川が上流から運んできて川原に堆積したものです。関東ローム層は箱根山や富士山から噴出した火山灰が少しづつ降り積もってできた地層です。

段丘礫層は相模原台地だけでなく、神奈川県の大地の成り立ちを考える上でとても重要な地層です。

段丘礫層。

相模原市立博物館所蔵の段丘礫の標本。

相模原市立博物館には相模原台地を構成する段丘礫層が所蔵されており、そのうちの4セットを神奈川県立生命の星・地球博物館へ貸し出しました。どのように展示されるのか、とても楽しみです。

機会があれば、神奈川県立生命の星・地球博物館にお立ち寄りいただき、出張中の礫たちの活躍をご覧いただければと思います。

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津久井城市民協働調査の講習会を開催しました!

6月15日に今年度の津久井城市民協働調査の講習会を津久井湖城山公園で開催し、25名の参加がありました。

当日の様子

今回の講師は近藤英夫さんです。近藤さんは東海大学名誉教授であり、前日本考古学協会副会長、津久井城遺跡調査団団長を歴任されました。

現在の津久井湖城山公園の建設にあたり、津久井城をどのように保存するのか考え抜かれた方であり、近藤さんがいなければ今の津久井城はありません。東海大学の石丸煕さんと共に津久井城御屋敷曲輪などを発掘調査され、御屋敷曲輪がどのようなものかその位置付けを考古学の観点から検討しました。下の写真はその発掘調査の成果をまとめたもので、博物館2階の市民研究室で閲覧できます。

各調査年度の発掘調査成果報告

複数年度の調査報告をまとめたもの

 

当日は2部構成の講座を行いました。はじめに文化財の在り方、無形文化財、有形文化財などを概観したのちに、「埋蔵文化財」と呼ばれる遺跡は発掘調査とその後の整理作業を行うことで、その遺跡の特徴が明らかになることが強調されました。そして、文化財そのものが地域のアイデンティティを物語るとされました。

国指定史跡 旧相模川橋脚の保存について

さらに、文化財をどのように保存し、地域に活用するのか。地域の事例として茅ヶ崎市の国指定史跡旧相模川橋脚や、南アルプス市の六科丘古墳などを話されました。その後、津久井城の市民協働調査について、「調査・研究・活用の諸段階を市民とともに経験している。これは大変貴重な事例なので今後もぜひ継続して欲しい。」と評価されました。

津久井湖城山公園の建設と津久井城の保存は、単なる公園建設ではなく「遺跡を守る前提で公園がつくられた」点が重要です。そして、発掘調査時点の見解はその時点のものであり、この先、研究の進展や発掘調査技術の進歩があるかもしれません。そのため、津久井城の全てを掘り尽くして発掘調査を完了とせず、未調査の部分を意図的に残すこともまた必要です。

これは津久井湖城山公園の公園整備の基本的な考えであり、市民協働調査を継続していく中でも、常に立ち返るべき重要な視点といえるでしょう。

さて、7月の講習会は、発掘調査で発見された「土壁」に注目し、津久井城の建物址の考察を踏まえて、土壁の製作実験を行う予定です。またこの職員ブログで発信しますので、お楽しみに!

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博物館資料保存論の見学実習を行いました

このところ大学の実習の記事が立て続いていますが、7月3日にも、玉川大学の「博物館資料保存論」を受講する学生さん約30名が来館されました。まず、当館の資料収集や普及活動の様子、収蔵庫の管理などについて学芸員から講義を行いました。

前半の講義の様子

後半は、実際にバックヤードをめぐります。2班に分かれて、1班は荷解(にとき)室や洗浄・乾燥室、大型資料収蔵庫、さらに館内の空調をつかさどるコントロール室、空調機械室などを見て回ります。

大型資料収蔵庫の様子

空調機械室は、冷温水発生機などが低温でグォングォンと唸る様子にちょっと圧倒されていました。

空調機開室内

もう1班は、収蔵庫を見て回ります。特別資料収蔵庫に続く前室を外から覗き、その奥の厚い扉については、前半の講義で話を聞いているため、みなさん興味深々の様子です。

特別資料収蔵庫前室

収蔵庫内部では、資料を単にしまい込んであるわけでなく、利活用を含めて収蔵庫が機能している様子を見てもらいました。

地質資料収蔵庫内

その後、1班と2班がローテーションし、終了しました。2時間ほどの実習で、地域博物館の裏側をたっぷりと見ていただきました。

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博物館収蔵資料紹介~うどん作りの道具

前回は、夏場のごちそうであった「酒まんじゅう」作りの道具を取り上げましたが、相模原を代表するもう一つの食べ物がうどんです。うどんは夏場だけでなく、夕飯には一年中うどんを食べ、夏場は茹でたうどんを水にさらした「あげそば」、冬場は野菜と一緒に煮込んだ「にこみ(にごみ)」を食べました。

なお、「あげそば」のように、そば粉で作ったものだけでなく小麦粉の麺であるうどんのことも一般にそばと呼んでいました。

うどんを作るには、前回紹介した「こねばち」で小麦粉をこね、それを麺状に細く切っていきます。最初の写真は「のしばん」と「めんぼう」(収集地・南区下溝)で、こねた小麦粉を細長く伸ばします。寄贈していただいた方は明治43年(1910)生まれで、実際にはこれらを使用したことはなく、親世代が使ったと言います。

二枚目の写真はのしばんの裏側で、使っていない時にはめんぼうを差しておき、無くしたりしないような工夫がされています。                  

それではどのような道具で麺にしたかというと、広く使われたのが製麺機(せいめんき)で、どの家でも古くから購入して使っていました。次の写真の製麺機は、明治28年(1895)生まれの方が嫁入りした時にはすでにあったと言われ、上溝で購入したと伝えられています(中央区相模原)。製麺機には製造所の表示があるものも多く、いろいろなところで作られていました。                   

 

製麺機にかけて麺状にしたうどんを茹で、「すいのう」(手前・緑区根小屋)で湯から上げて「そばあげ」(緑区大島)に取ります。そばあげには他にも笊(ざる)を使ったり、さまざまなものがあり、写真のものは自家製で、大量のうどんを茹でた時に使いました。                  

今年はいまのところ猛暑となっていますが、機会があればざるうどん(あげそば)を食べて、かつての地域の食文化に想いをはせるのはいかがでしょうか。

※前回に引き続き「写真に見る昭和・平成の相模原」No.19には、今回取り上げた道具       を使用している写真を掲載しています。

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野外動物学の実習を行いました

7月2日、麻布大学獣医学部動物応用学科の学生さん約20名が実習実験室に集まりました。野外動物学の実習を博物館で行うためです。野外と言っても、この猛暑の中での野外活動は危険です。できるだけ室内での作業を行いました。そして、動物学の実習ではありますが、博物館で行うからには、動物に限らず博物館資料を広く扱いつつ進めます。まずは、植物標本を使った実習です。博物館資料としての標本の意義などを講義で学んだ後、実際にヒルガオとコヒルガオの標本を見ながら種の識別をします(標本ラベルの種名の表記が隠されています)。

コヒルガオとヒルガオの標本比べは難解です

この両種はとても身近な雑草ですが、意外にも識別は困難を極めます。標本をたくさん集める理由、つまり、植物にもそれぞれ個体差があり、図鑑にピッタリ一致するものばかりとは限らないことを実感してもらいます。
続いて、博物館お隣の樹林地に出て植物採集です。

暑くても野外はやっぱり楽しい!

30度を超える暑さでしたが、風が少しあるのと、やはり樹林内の木陰は耐えられないほどのコンディションではありませんでした。それでも、長い時間の活動は危険なので、ちょっとだけ自然観察をしてから室内へ戻りました。下の写真は、植物の茎に止まるアオバハゴロモの幼虫を観察しているところです。

アオバハゴロモのかわいい動きに注目

白い粉のようなものが、手を近づけるとツツツ・・と茎の裏側へ回り込むのを見ています。「かわいい!」と好評でした。

アオバハゴロモの幼虫 白い粉がついているように見えますが、よく見ると目や足があります

室内へ戻り、標本ラベルを記入して標本を整えた後は、お昼休憩です。
午後からは、動物標本を使った実習です。鳥類のはく製を各グループで観察し、部分のスケッチをします。そして、同じところ、違うところ、「なぜ?」と思ったところを書きだします。

まずは標本をじっくり観察して、スケッチします

さすが、生物学を専攻している学生さんたちなので、スケッチはとてもよく描けていました。

しっかり観察してスケッチしてくれました

パーツにクローズアップしたスケッチ 足をとても正確に描いています

そして、グループ内で観察した内容を発表します。

観察したことを発表

ここで重要なのは、聴いている人と共通認識が得られる表現ができているかどうか、です。自分しか認識できない表現、例えば、見ている角度によって変わってしまう見方や、主観的な見方、指示した部位が明確でない表現などが指摘されます。
戸惑いつつも、順番が進むにつれて言葉を慎重に選びながら発表してくれました。
知識に頼るのではなく、今、目の前にある標本をどのように観察し、それを表現するかというちょっと難しい課題でしたが、みなさん真剣に取り組んでくれました。

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鳥類学の実習を行いました!

6月25日午後、博物館の大会議室で青山学院大学の講義と実習が行われました。テーマは「野鳥の生態」です。まず、生物担当の学芸員から、博物館資料としての標本の意義と活用について講義を受けました。続いて、博物館が収蔵している鳥類のはく製を使って実習です。形態などを見ながら、学生たち自身で標本を分類してもらいました。

ずらりと並んだ鳥類のはく製

学生たちは、嘴(くちばし)や足の形などから「水鳥系」「猛禽系」などと分類していきます。小鳥はひっくるめて「ちゅんちゅん系」、あるいは「ぽっぽ系」などと、独特の言葉でディスカッションしながら分類していく様子がとても微笑ましく感じられました。
続いて、分類の答え合わせをしながら、それぞれの種群の特徴を確認します。また、全身骨格標本から、鳥の骨の特徴を学びました。

骨格には鳥の生活にまつわるたくさんの情報が詰まっています

終了後、標本を片付けながら標本庫を見学してもらうと、「サイコーに刺激的だった!」などと感想を言ってくれた学生もいました。標本という実物資料がいかに知的好奇心を掻き立てるものかということを、こちらも改めて確認することができました。

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地質学講座、終了しました。

6月25日(土)に今年度の地質学講座「身近な石の中の鉱物〜造岩鉱物の基礎」は無事、終了しました。

今回の講座では、地球上で最もありふれた鉱物についてお話ししました。ありふれた鉱物にもかかわらず、これまで、あまり紹介されることが少なかったので、身近な鉱物について知る良い機会になったと思います。

参加者の反応を見ながら話すことができるので、オンラインよりも、やはり対面の方が良いですね。質問も活発に出され、充実した講座となりました。

久しぶりの講座なので、準備や進行などで手まどる場面も多々ありましたが、なんとか終えることができました。参加者の皆様、お手伝いいただいたボランティアの方々、ありがとうございました。
来年度以降も企画していきたいと思います。

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カイコは繭を作り始めています!

6月1日の給桑開始から26日目、カイコは熟蚕(じゅくさん=繭を作り始める状態になったカイコ)になり、飼育容器の隅で頭を振って繭を作ろうとしているものから蔟(まぶし=繭をつくる場所)へと移しました。しばらく落ち着かずに蔟の上を歩き回っていますが、そのうち、蔟の1区画に収まって繭を作り出します。写真は、6月28日の早朝から作り始めたものです。

繭を作り始めて半日ほどのカイコ

28日の朝、繭を作っている様子を見ていただこうと、一部を蔟ごと飼育展示コーナーに出しました。

蔟を展示中

光に反射して輝く繭糸(けんし)が膜のように内部を覆っていき、時間が経つにつれて繭の形が見えてきます。その神秘的な様子に息をのむお客様も少なくありません。
飼育容器に残るのは数十頭だけとなり、このカイコも今日から明日には繭を作り始めます。

クワを食べているカイコも残り少なくなりました

繭は作り始めて丸2日で完成します。うっすら中が見える状態の繭は、作り始めの1日だけなので、今週前半までしかこうした繭の状態を見ることができません。梅雨明けの猛暑をしのげる博物館へ、ぜひご来館ください。

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