小さな花

真夏の強すぎる日差しを避けるように、樹林内では小さな花がたくさん咲いています。その一つがこちらのヌスビトハギです。鮮やかなピンク色と、マメ科特有の立体的な花がとても美しいですね。

ヌスビトハギの花

ただ、この植物は花よりも、こちらの果実の方がじつは有名です。実ると、かなりやっかいな“ひっつき虫”になるからです。

熟すとやっかいなひっつき虫になるヌスビトハギの果実

ハエドクソウも、大きな植物体のわりに小さな花を咲かせます。

ハエドクソウの花

日差しに負けずに咲く小さな花もあります。ヤブカラシです。

ヤブカラシ

よく見ると、ピンクの花とオレンジ色の花があります。色によって昆虫の群がり方も違うようです。

ヤブカラシの花 こんぺいとうのような花

ちょっと面白い観察ポイントがある植物なので、先日公開した「生きものミニサロンウェブ版」(初回はアブラゼミの羽化など夜の自然観察の様子を紹介しました)の第2弾を撮影してみようと思いつきました!公開の準備が整ったら、またこちらのブログでお知らせします。

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「写真で見る相模原~昭和・平成の生活と民俗~」(No69・大山への道しるべ②)

前回に引き続き、津久井地域の大山道標(おおやまどうひょう)を中心に紹介します。

最初の写真は、緑区原宿で、町田市大戸から緑区川尻に入り、川尻八幡宮の前を通って、相模川の小倉の渡しに至る道にあったものです。安永9年[1780]造で上部に不動尊の座像が乗り、「大山」の文字のほか、「西 津久井みち」「東 江戸八王子道」などと記されています。

実はこの大山道標には、位置の関係で写真撮影が難しい反対の面に「小くら船場道」とあり、船による運送を生業とする高瀬講中の者たちが建てたもので、大山へ行くための参詣人を、自分たちが営む渡船場に向わせる目的があったものと考えられています。

次の写真は緑区青野原・梶野地区の明和5年[1768]造で、庚申塔(こうしんとう)ですが「南大山道」「西道志路」などと記されています。この場所は、青野原から緑区鳥屋(とや)を経て清川村宮ヶ瀬(現在は宮ヶ瀬湖のため水没)に至るところに当たり、さらに、ここで北及び西方面からの道が合流しました。

                  

 

次のものは西側の道にあった道標の一つで、同じく青野原・西野々〈にしのの〉地区の享和3年[1803]造です。正面の「大山道」ほか、「右まきのみち(緑区牧野)」「左あおねみち(緑区青根)」と記され、北側の牧野からの道が、西側の青根からの道に合流する地点であることが分かります。

 

最後の写真は、緑区牧野・大鐘地区の代参講中による安永3年[1774]造です。大きな角柱塔に深く立派な彫りで大山道とあり、この3文字の中に米一升が入るよう祈りを込めて彫られたとされています。作った石工名も記されており、江戸時代に石工の職人が多くいたことで有名な信州(長野県)高遠(たかとお)の田原村儀右衛門の作です。

なお、この大山道標のある場所にはほかにもいくつかの石仏があり、閻魔(えんま)像が目を引きます。念仏供養塔として延享2年[1745]の造立です。子どもが嘘をつくと、閻魔様に舌を抜かれると言ってしつけをしたという話が残されています。

 

2回にわたって大山道標を中心として石仏を取り上げてきました。博物館にももちろん多くの石仏の写真を保管しており、特徴的で興味深いものも数多くあります。今後、そうした石仏なども紹介していきたいと思います。

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コナラの受難

博物館の敷地内には、かつて相模野台地の雑木林の主要な樹種であったコナラが多く植えられています。秋の実りの季節に備え、すでに若いドングリが大きくなりつつあります。

コナラの若いドングリ

しかし、比較的大きなコナラの株の多くが今、葉が茶色く変色し、枯れようとしています。

博物館駐車場のコナラ(中央の木が枯れて葉が茶色く変色している)

これは、全国的に蔓延する「ナラ枯れ」という現象によるものです。ナラ枯れは、コナラの幹を食害するカシノナガキクイムシ(通称カシナガ)という甲虫の一種が、コナラの病原菌であるナラ菌を媒介して起こす病気です。ナラ菌に感染した幹の細胞は死に、道管(幹の中で水分を通す組織)が目詰まりを起こします。その結果、梅雨明けの頃から急に葉が茶色く変色して枯れてしまいます。

カシノナガキクイムシ(コウチュウ目ナガキクイムシ科)の成虫

比較的老齢のコナラがナラ菌に侵されて枯死すると言われ、大きな太いコナラに被害が多く見られます。博物館でも、カシナガが増殖、分散しないよう、幹に粘着テープを巻くなどして対策していますが、周辺の罹患木(りかんぼく)すべてに巻くわけにもいかず、抜本的な対策はできないのが現状です。

ナラ枯れのコナラを下から見上げたところ

ただ、コナラはもともと長寿の木ではありません。生活エネルギーとして炭や薪を利用していた時代には、伐採によって更新され、健全な雑木林が育成されてきました。しかし現在はそうした管理がされず、放置林となっていました。そこへナラ枯れによって自然界がコナラの老齢林の更新をはかっているようにも見えます。

カシナガの幼虫の食痕であるフラス(木くず)が根本にたまっている

すでに西日本ではナラ枯れのピークが過ぎていると言われており、関東地方でもナラ枯れですべてのコナラが枯死するわけではないと考えられています。
そうは言っても、枯死したコナラは落枝や倒伏の危険があるため、これから伐採、除去を進めなくてはなりません。キアシドクガによるミズキの食害に続き、コナラにも受難が降りかかり、博物館周辺の樹林も様相を大きく変えようとしています。

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「軍都さがみはら展」の解説動画をアップしました!

7/17から8/29まで開催予定であった博物館×公文書館共催 相模原町誕生80年企画「軍都さがみはら展~国内最大の町誕生物語~」は、残念ながら緊急事態宣言を受けて8/5で終了となってしまいました。(当館は8/31まで休館の予定です)

企画展入口看板です(生き物写真展も同会場で開催していました)

 

夏休み中で多くの方に来場いただいていましたが、8/5で終了になってしまいました

たくさんの子どもたちにも展示を見ていただいていました

このたび、関連事業として予告していた同企画展の展示解説動画を、当館ホームページ「ネットで楽しむ博物館」に掲載しました。

当館ホームページ「ネットで楽しむ博物館」

動画解説画面

解説動画は前半約12分、後半約14分の2部構成で、相模原にあった陸軍施設や軍都計画の概要などについて、展示を担当した学芸員がやさしく?解説しております。

前編は陸軍士官学校の東京からの移転と各陸軍施設の移転・建設のコーナー解説です

後半は軍都計画と相模原町の誕生、戦時中の相模原町の整備、戦後の相模原の開発、座間市資料紹介です。

今回の企画展ではスペースの関係などで個々の陸軍施設や軍都計画の詳細、銃後の生活等は紹介できておりません。また、解説も聞き苦しい点があるかと思いますが、ぜひご覧いただければ幸いです。

また、今後各コーナーについて、この職員ブログで紹介していく予定ですので、どうぞお楽しみにしてください。

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生きものミニサロン ウェブ版「家のまわりで真夏の夜の自然観察」を公開しました!

相模原市立博物館は8月6日から緊急事態宣言中の臨時休館となっています。
毎月恒例の生きものミニサロンも8月は中止となってしまったため、ウェブ版として「家のまわりで真夏の夜の自然観察」をYouTubeの相模原市立博物館チャンネル内に公開しました。リンクはこちらです。

タイトル画像

撮影は8月5日、アブラゼミの羽化の様子などを撮影しました。

生物担当の学芸員が解説をしています

約45分かけて羽化した様子を、7分余りの動画にまとめ、さらに夜に咲くカラスウリの花や、樹液レストランに集まる昆虫の様子なども加え、合計で9分弱の動画です。

ノコギリクワガタも登場!

夜の自然観察のポイントなども紹介しています。ぜひご覧ください!

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真夏に咲く花

8月6日、市内緑区の沢沿いで植物調査を行いました。例年、この時期は博物館も繁忙期で行事や実習対応など盛りだくさんなため、あまり野外調査に出られません。しかし、今年は緊急事態宣言発令に伴い8月6日から臨時休館となったため、調査に出ることにしました。
目的はこちらの植物、オオヒナノウスツボ(ゴマノハグサ科)です。

オオヒナノウスツボ

花が1センチメートルに満たないくらい小さいのですが、アップにすると・・

オオヒナノウスツボの花のアップ

ゴマノハグサの仲間らしく、かわいらしい花です。このあたりの沢は細かく崩れやすく、いわゆる“ガレた”場所が多いのが特徴です。そうした場所に多いヘビがマムシです。この日もひっそり沢の影に隠れていました。

マムシ 落枝の下に隠れていたのですが、そっとどけて写真を撮らせてもらいました

林道の水たまりでは、カラスアゲハが吸水していました。

カラスアゲハ 少々ピンボケです

こちらの接近に驚いて飛び立ち、近くの木にとまりました。

青色光沢が美しいチョウです

沢を吹き下りてくる風は涼しく気持ち良かったのですが、それでも猛暑に変わりありません。日なたや、無風時の暑さは尋常ではありませんでした。お昼で調査を切り上げたものの、たくさんの汗をかいたので、たくさんの水分を取りながら帰途につきました。

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アブラゼミの羽化

博物館は8月6日から緊急事態宣言に伴う臨時休館となります。
8月5日夜、休館中に発信するウエブコンテンツ用に、博物館お隣の樹林地で夜の自然観察を行いました。主役はアブラゼミです。午後6時50分に羽化が始まっている幼虫がいました。歩道の柵のトラロープにとまっていてちょっと風情が無いのですが、撮影はしやすい位置です。この個体をロックオン!

背中が割れて羽化が始まったアブラゼミ

眼が出ました。

まっ黒くつぶらな眼をしています

みるみる胸部が現れます。

最初の写真からここまで約6分です

最初は重力を使って逆さの状態で殻を脱いでいきます。時折体をプルプルと震わせたり、腹部を前後にずらしながら脱皮が進みます。

落ちてしまわないかヒヤヒヤしますが、大丈夫

腹部の先の方まで進み、これ以上脱いだら落ちちゃう、というところで、おもむろに上体を起こして前脚で殻につかまります。すると、腹部の先がするりと抜けて、懸垂の状態になります。この間は動画を撮影していたため写真はありません。公開をお楽しみに!

腹筋運動のように上体を起こして前脚でつかまるところは動画で撮影してあります

頭を上にすると、次は翅(はね)です。これも重力に従って音もなく広がり、その数分の光景は羽化のクライマックスと言えます。

翅が見る見る伸びていきます

伸びきった翅は淡いコバルトブルーがとても美しく神秘的です。

翅が完全に伸びたら、乾くのを待ちます

これから夜明けまで全身が乾いて固まるのをじっと待ちます。無防備なこの時間に、ハクビシンやタヌキに食べられてしまう個体も多いことでしょう。夜が明けると今度はカラスに狙われてしまうので、その前には飛び立ちたいところです。生き抜いていくのは大変なことですね。

近くの樹液レストランには、ノコギリクワガタがいました。

ノコギリクワガタ(オス)

蚊の襲来に悩まされながらの撮影でしたが、見どころも多くて充実した観察となりました。観察の様子は近日中に動画配信しますので、しばらくお待ちください。

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ライトに集まる虫

先日、このブログで紹介したカラスウリの花を観察した8月3日夜は、ライトの光に集まる虫を調べるのが本来の目的でした。蛾の仲間がたくさん集まるかと思いきや、ほとんど集まらず、カメムシやコガネムシの仲間がほとんどでした。中には、ヒグラシも。

ヒグラシ

ヒグラシはおとなしいセミで、手に乗せると静かに止まることも多く、あまり飛び回りません。
光に集まったカメムシを黙々と捕食していたのは、ヤブキリ。丸くつぶらな目と、ムシャムシャ食べている様子のギャップがシュールです。

ヤブキリ

そして、ちょっと珍しい昆虫がやってきました。ライトの下でガチッと固まっていたのは、ナガヒラタムシです。下の写真は上面です。上から見ると脚が見えません。

ナガヒラタムシ(背面)

いつの間にかころりとうらがえしになっていて・・

ナガヒラタムシ(下面)

脚を内側にきれいに収納していました。光に集まってきた虫はたいてい、バタバタと動き回るのですが、この虫は固まっていてまったく動きません。一緒に調査した専門家の話では、原始的な形態を残す虫で、生きた化石とも言えるそうです。
夜は、昼間とは違った自然の姿がありました。
博物館は明日(8月6日)から緊急事態宣言に伴い臨時休館となります。その間、夏休み中の自然観察の手引きとなるような動画の公開を予定しています。このブログで公開情報をお知らせしますので、どうぞご期待ください。

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闇に咲く花

8月3日の夜、博物館お隣の樹林地内に純白のレースをまとったカラスウリの花が咲いていました。

カラスウリの花

カラスウリは、晩秋に実る果実は鮮やかな朱色でよく目立ちますが、花を見る機会は意外とありません。

カラスウリの果実(10月に撮影)

それはやはり、夜咲く花だからでしょうか。この純白のレースの装飾の意味合いはよくわからないのですが、花粉の媒介者(ばいかいしゃ:花粉を運ぶ動物)であるスズメガの仲間へ何かアピールするものがあるのかもしれません。

カラスウリの花

日中の猛暑をふと忘れるような闇の中、ほのかに香る甘いにおいとともに、妖しい美しさを放っていました。

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「写真で見る相模原~昭和・平成の生活と民俗~」(No68・大山への道しるべ①)

伊勢原市などにそびえる相州大山(そうしゅうおおやま)は、古くより各地からの信仰を集め、特に7月27日から8月17日の「夏山」(なつやま)の期間は、大山講の人々がまとまって参拝します。そして、江戸時代には、頂上までの参拝は夏山の間(旧暦6月27日~7月17日)だけ許されていました。

市内にも大山へ至る、通称「大山道」がいくつかあり、そのうちの一つを歩いていく民俗講座「大山道を歩く」を平成14年[2002]に実施したことは、本ブログのNo.29で紹介しました。今回は、こうした道に建てられたいくつかの大山道の道標(どうひょう)を中心に紹介します。

最初の写真は、緑区橋本の横浜線の踏切にある表示で、この踏切を通る道が大山道であったことを示しています(平成16年[2004]11月17日撮影)。

次の2枚は前回も紹介しており、1枚目は緑区橋本の大山道標で、安政2年[1855]造です。上部に大山の不動明王を彫り、正面に「右大山みち」と記されています。現在は区画整理のために旧道はなくなっていますが、地域では「橋本の棒杭(ぼうぐい)」と呼ばれて親しまれており、市の登録史跡となっています(平成13年[2001]9月2日撮影)。

次の写真は、嘉永2年[1849]造で、中央区上溝・田尻の三叉路にあり、向かって右に行くと南区当麻から厚木というように大山方面、左は座間などに南下していく道となります(平成15年[2003]7月1日)。

市内の大山道では、橋本―上溝―当麻のほか、橋本から中央区田名を抜けるルートがあり、田名の水郷田名地区には旧道の雰囲気を伝える道も残されています(平成13年[2001]9月28日)。

また、田名・四ツ谷集落には、これも場所は移動していますが、やはり不動像ともに「此方(このかた)大山道」と記された道標が見られます(平成16年[2004]8月30日)。

 

さらに、橋本以外に、町田市木曽町から中央区淵野辺を通って南区磯部で相模川を渡る大山道が知られており、次の写真は上磯部地区のT字路の端にあるもので、元治2年[1865]造です。おそらく向かって右側の不動像が、左側の「不動尊」と記された角柱の上に載っていたと思われます。ちなみに真ん中は道祖神です(平成11年[1999]1月10日)。

 

この上磯部の道標を右手に真っすぐ進むと見えてくるのが、造立年不詳の下磯部の文字塔です。「右大山道」とありますが、右に曲がったところに相模川の「磯部の渡し」があり、渡し場の場所を間違えないように大山に向かう人たちに伝えています。

最後に紹介するのは、南区上鶴間本町の安永9年[1780]造で、不動像の頭部はなくなっているものの正面に「大山不動」と記されています。これは大山への道しるべというより、「講中十四人」とあるように地元の大山講の人々による建立で、そうした地元の信仰に基づく石造物も各地に残されています(平成15年[2003]7月25日)。

 

このような大山道標は相模原地域だけではなく、もちろん津久井地域にも見られます。次回は津久井地域について取り上げたいと思います。

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