人吉被災標本の返却が完了

令和2年7月豪雨で被災した人吉城歴史館(熊本県)収蔵の前原勘次郎植物標本を、全国の博物館などで洗浄乾燥処理を行っています。当館でも昨年の夏今年の夏に合計560点を受け入れ、博物館を拠点に活動するボランティアグループの相模原植物調査会のみなさんと作業にあたってきました。

相模原植物調査会のみなさんと生物分野実習生による作業

昨年も今年も、生物分野の実習生を交えて作業を行いました。100年以上前の歴史的標本も含まれる貴重な資料の洗浄乾燥という特異な作業の体験は、実習生にも強い印象を残しました。この作業を終えて、人吉市の受け入れ体制も整ったことから、9月30日に熊本県へと発送を済ませました。

8箱に詰められた返却標本

洗浄乾燥処理を行った標本はどれも、近年になってから地元の植物研究者が地道に整理作業を行い、きれいに整えられたものばかりでした。地域の生物多様性を示す貴重な資産である植物標本が、今後永久に保管、利活用されることを願ってやみません。

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シラサギの種類

一般に“シラサギ”と呼ばれるのは、純白のサギ類の総称です。関東地方では主にダイサギ、チュウサギ、コサギと、大・中・小の3種類が含まれます。純白なだけによく似ていて、慣れないと識別は困難です。下の写真は、市内の相模川にいたダイサギ(右2羽)とコサギ(左)です。大きさの違いがよくわかります。

コサギ(左の1羽)とダイサギ(右の2羽)

コサギは比較的識別が簡単で、足指が黄色いのが目印です。これはシラサギの中でコサギだけが持つ特徴です。

水面の上に出た足指が黄色いコサギ

ちょっと難しいのが、ダイサギとチュウサギです。大きさは、大と小の中間というより、コサギに近い大きさです。下の写真は上がダイサギ、下がチュウサギです。でも、この写真のように並んでくれればわかりますが、1羽だけで見るとシルエットはよく似ているので難しいところです。

ダイサギ(上)とチュウサギ(下)

近くから観察できれば、顔にわかりやすい特徴があるので見分けられます。口角(こうかく)にあたる部分が、目の位置より後ろまで伸びているのがダイサギ(上の写真)です。目の位置くらいで止まっているのがチュウサギ(下の写真)です。さらに、嘴(くちばし)から額のラインが直線的なのがダイサギで、少し丸みのある額がチュウサギです。

ダイサギの顔 口角(クチバシの合わせ目の付け根側)が目の後ろ側まで伸びている

チュウサギの顔 口角が目の下あたりで止まっている 額は少し丸みがある

チュウサギはこれらの3種の中では少し数が少ないのですが、秋のこの時期は稲刈り前後の水田でよく見られます。
ところで、ダイサギについてはさらにややこしい話があり、亜種(同種の中で、繁殖分布などが異なり形態的にやや違いが見られることから区別する分け方)としてチュウダイサギがいることです。亜種ダイサギと、亜種チュウダイサギについてはまた別の機会に紹介したいと思います。

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「写真で見る相模原~昭和・平成の生活と民俗~」(No75・伝説④ 石や岩の伝説)

「木」「水」に引き続き、今回は「石(岩)」です。

最初の二枚の写真は、緑区与瀬の「御供岩(ごくいわ)」です。この地区では与瀬神社を祀っていますが、ご神体は相模川での漁の網に掛かったとされ、その場所にあったのがこの岩です。しかし、相模湖建設のために元々の岩は湖底に沈み、現在はその一部の岩が湖畔に移されています。4月の祭りには、御供岩にも新しいしめ縄が巻かれ、また、神社の神輿(みこし)はここまで担がれてから、神社に戻ります(平成20年[2008]4月11日撮影)。

 

次の写真は中央区田名の「亀の甲石(かめのこうらいし)」です。明治22年[1889]の相模川の洪水の際に大きな亀が流れ着き、いろいろ世話をしたものの死んでしまいました。その亀を埋葬した上に、亀によく似た石を置いて供養したとされ、9月の地区の神社の祭礼翌日にこの石の祭りを行いました。写真はちょうど2月の初午(はつうま)の後で、団子が供えられています(平成12年[2000]2月11日)。

 

ほかにも相模川に関係するものとして、例えば中央区田名の「船乗り地蔵」があります。舟形の石の上に地蔵(ただし頭部はありません)が乗ったもので、自分の子どもが相模川で死んでしまった船頭が、供養のために以前からあった地蔵を祀り、それからは地元の船乗りやいかだ乗りも安全を祈ってお参りしたと言われています(平成13年[2001]年1月16日)。

 

雨が降らなくて困った際に行われる雨乞いにはさまざまな方法があり、職員ブログ「相模原ふるさといろはかるた」No.36でも紹介しましたが、次の写真はその際にも取り上げた、中央区田名八幡宮にある「じんじい石」や「ばんばあ石」です。雨乞いには、ほかにも寺の鐘や石仏の地蔵を水に入れるという話が各地にあり、石など水の中に何か入れることで水が降ると考えられてきました(平成13年[2001]年1月6日)。

 

石は重いものなので、神社の境内などには若者が力比べをしたという力石が見られます。写真は南区鵜野森・日枝神社の力石で、重さが異なるいくつかの力石があり、それぞれ米粒(十七貫・約64㎏)、そば粒(二十七貫・約101㎏)、ぼたもち(二十八貫・約105㎏)などと呼ばれていました。かつては米俵(十六貫・約60㎏)が担げれば男は一人前だったという話を聞きますが、それにしても重い石で力試しをしたことが分かります(平成15年[2003]3月16日)。

 

最後の写真は中央区上溝の「岩倉の手玉石」です。前と同じく力石で重さは300㎏くらいあるとされ、この地にいた岩倉という力士が、力が湧いてくるとこの石を手玉にとって力を試したと言われます。市内ではこのほかにも、緑区相原に国定忠治(くにさだちゅうじ)が軽々と持ち上げたという力石もあり、力士岩倉をはじめとした大力の者の話が残されています(平成10年[1998]11月18日)。

このほかにも石や岩の伝説や話は各地にあり、特に「船乗り地蔵」など、石で作られた石仏にはさまざまな言われを持つものが見られます。改めて機会を捉えて紹介したいと思います。

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タカの渡り

9月は、タカの仲間であるサシバの渡りが全国各地で観察されます。名所と呼ばれる場所では、一日で1000羽を超えるサシバや、ほかのタカの渡りが見られ、多くのバードウォッチャーが集まります。
市内でも何カ所か渡りの見られる場所が知られていますが、いずれも山頂や高台の見通しの良い場所です。ところが9月27日、低地の相模川の河原でタカの渡りが見られました。緑区の段丘崖(だんきゅうがい)沿いの河原で、頭上を6羽のサシバが旋回してぐんぐんと高空へ上がっていきました。

旋回するサシバ

こうして上昇気流に乗って高空へ上がってから、一気に西へ滑空して渡っていきます。このように群れて旋回上昇する様子を「タカ柱」と呼び、渡りの名所での見どころの一つです。6羽のタカ柱はささやかなものでしたが、上り切って一気に滑空する様子は感動的です。

西へ向かって滑空するサシバ

 

相模川の河原からこうしたタカ柱が見られるのは少し珍しいかもしれません。タカの渡りは、その年の天候や気象条件などによって時期もコースも少し変化します。毎年見られるかどうかわかりませんが、今後も注視していきたいと思います。

 

 

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博物館実習分野別<歴史>最終日

みなさんこんにちは。歴史分野の実習生です。分野別実習最終日は、ミニ展示の設営を行いました。

 

解説パネル制作中

 

解説パネル、キャプション、書き下し文等の打ち出し、パネルの切だしを行いました。

 

 

最後に作成したパネルをボードに貼り、展示ケース内に資料を入れて最終調整を行いました。ボードに虫ピンが刺さらなかったり、実際にボードにパネルを貼るとイメージと異なり、悪戦苦闘しました。

 

解説パネルを虫ピンで打ち込み中

 

頑張って作ったので、博物館が開館したらぜひ見に来てください。

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アリグモの受難

博物館では、市内で発見された生きものの問い合わせが頻繁にあります。中でも、特定外来生物に指定され、人間に対して害を及ぼす可能性があるものは、市民から直接持ち込まれるほか、外来生物や衛生害虫などを扱う部署からも持ち込まれることがあります。最近多いのはゴケグモ類とヒアリの疑いのあるものです。先日、「ヒアリではないか」と持ち込まれたものがこちらです。市内ではまだヒアリの確認記録は無いので、ちょっと緊張しながら入れられてきた容器内を見ると・・

アリのようですが・・足が!

体長6ミリメートルほどで光沢があり、赤味がかった小さなアリ(のようなもの)。確かに、環境省が公開しているヒアリ情報の特徴にも一致します。でもでも、上の写真をよく見てください。脚の本数が・・8本あります。昆虫であるアリは、6本のはず。そうです、これは、アリではなく、クモなのです。アリグモ類という、アリそっくりに擬態(ぎたい)したクモの仲間の一種です。

アリグモの仲間(オス) ご丁寧に、一番前の脚1対を、アリの触覚に似せて動かしながら歩きます

アリグモ類のオスは触肢(しょくし)と呼ばれるクモ類特有の頭部の部位がとても大きく、よく見るとアリっぽくないのですが、これは、アリが物を運んでいるところに擬態しているという説もあります。そもそも、なぜアリに擬態しているのかというと、アリを嫌う(食べない)動物も多く、そうした動物からの捕食を避けるためと言われています。
1枚目の写真のアリグモの仲間(おそらく、ヤガタアリグモ)は、触肢が発達していないのでメスでしょうか。それにしても、アリとよく似ています。クモの眼は8個あるので、多くのクモの顔つきは昆虫とは似ていないのですが、アリグモ類はそのうちの1対を大きく目立たせて、アリに似せています。

アリグモの仲間(メス)

ここまで徹底して擬態しているのが災いして、海外から持ち込まれたヒアリとも似てしまいました。捕獲されて毒の生きものの疑いがかけられてしまうとは・・このアリグモもまったくの想定外だったことでしょう。
ちなみに、アリグモ類は、クモ類の中ではハエトリグモの仲間です。あの、家の中をピョンピョンと飛び跳ねて蚊やハエを捕まえてくれるかわいいクモです。

ハエトリグモの仲間

アリグモ類は家の中には入らずに、樹林や草原に住み、植物の葉の上などで小さな昆虫を捕食します。ほかのハエトリグモ類と同様、人間にとってまったく害は無く、蚊やハエを獲ってくれるなど、人には良いことしかしない生きものです。なるべく、ヒアリと間違われないことを願うばかりです。

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「写真で見る相模原~昭和・平成の生活と民俗~」(No74・伝説③ 水にまつわる伝説)

前回の「木」に引き続き、今回は「水」がテーマです。

最初の写真は、南区当麻の「笈退り(おいしゃり)」です。前回、時宗(じしゅう)を開いた一遍上人(いっぺんしょうにん)ゆかりの「なぎの木」を紹介しましたが、「笈退り」は一遍上人が杖で地面に穴を開けて清水を出し、その水が勢いよく湧き出したため、上人の笈(宗教者が荷物を入れて背負うもの)を後ろにそらせたなどと言われています(平成11年[1999]12月撮影)。

 

次の写真も笈退りと同様に清水が湧いている場所で、南区下溝の「おみたれ水」です。隣りに地域の神社である十二天神社があり、神社の下から湧き出ているきれいな水として、各地から水を貰いに来たと言います。また、この水が流れる沢では、かつてワサビが作られていました。市内でワサビ作りが行われていたことは、本ブログNo.12でも紹介しました(平成3年[1991]7月)。

 

これも前回に取り上げた照手姫(てるてひめ)の伝説では、中央区上溝から流れ出る姥川(うばがわ)の泉で照手姫は産湯(うぶゆ)をつかい、成長してからはお化粧の水に用いたとされます。河川改修で水源の泉はなくなりましたが、その跡に建てられていた照手姫伝承遺跡の碑は、横山丘陵緑地の姥沢地区内に移設されています(平成25年[2013]3月)。

 

もう一つ緑区小原の底沢地区にも、照手姫の化粧場だったという渓谷に「七ツ淵」があり、照手姫誕生の地とされています(平成28年[2016]5月)。

 

最後の写真は緑区佐野川・和田地区の「雨乞い淵」です。職員ブログでは「相模原ふるさといろはがるたでみる名所紹介」のシリーズもありますが、そのNo.36で、緑区川尻や緑区日連(ひづれ)の雨乞いの池を取り上げました。雨を降らせる際に祈願をする水場が各地にあったことが分かります。なお、和田地区は急斜面にお茶畑が広がり、この地区を含む佐野川全域が「にほんの里100選」に選ばれています(平成20年[2008]3月)。

水というと、川や橋など関連する事柄が多くあり、ここで取り上げたのは水に係わるもののごく一部です。今後も石や塚など、さまざまな内容に触れていきたいと思います。

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博物館実習分野別<歴史>5日目

みなさんこんにちは。歴史分野の実習生です。分野別実習5日目は、ミニ展示に向けての解説パネルの検討をしました。

 

解説パネル文案を検討中

 

解説パネルの文案を練っては考え直しを繰り返しました。

さらに更に下書きも作成しては訂正してを繰り返し、今日一日中文案の作成に頭を抱えました。

 

文案を入力しています

 

 

実際にパネル案を貼って検討しています。

 

とうとう次回が実習最終日です。

より良い展示ができるように頑張ります!!!

お楽しみに!

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博物館実習分野別<歴史>4日目

みなさんこんにちは。歴史分野の実習生です。分野別実習三4日目は、ミニ展示に向けてのフィールドワークをしました。

フィールドワーク中(元橋本 牛久保家)

ミニ展示で扱う萩原安右衛門と同じく八王子千人同心であった淵野辺本町の小川家と元橋本町の牛久保家に行きました。

小川家の千人同心看板を撮影中

博物館に帰ってきた後、ミニ展示に向けた話し合いを行いました。

資料を配置する構成や解説パネルの文章を検討しました。

キャプションの検討中

ミニ展示の完成まであと3日です!

博物館が開館したらぜひ来館者にも観ていただきたいと思います。お楽しみに!

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ジュズダマ

ジュズダマというと、懐かしさを感じる方も多いのではないでしょうか。お手玉の中身にしたり、糸でつないで首飾りにしたりと、子どものいろいろな遊びに使われていました。秋になると野みちに実るジュズダマを集めて回った記憶をお持ちの方も多いはず。
ジュズダマは、イネ科の外来植物(東南アジア原産)です。やや湿った場所を好むので、相模原では分布が限られ、相模川の河原の一部などで見られます。

ジュズダマの花(緑区の相模川)

背丈が1メートルを超える大型の植物ですが、イネ科なので花は地味です。下の写真は雄しべが垂れ下がっているので、開花中であることがわかります。

ジュズダマの花

遊びの道具になるのは、花が終わると陶器のように固くなって光沢の出る、苞葉鞘(ほうようしょう)に包まれた果実です。

ジュズダマの果実

上の写真は黒く熟していますが、灰色から瑠璃色、青緑色など様々な色になり、それがまた子どもの収集欲をそそります。
ジュズダマは、実はハトムギの原種でもあります。でも、薬用成分はハトムギとは異なり、雑穀として食用にされたり、数珠(じゅず)を作る材料にされたり、または宝飾品としても利用されていたという説もあります。いずれにしても、日本ではかなり昔から利用されてきたようです。

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