セミの受難

このところ、セミの羽化など夜の自然観察について頻繁に投稿しています。その中で、7月29日に実施した大野南公民館でのセミの羽化観察会のために、公民館の実行委員のみなさんと7月27日に現地を下見しました。その際、衝撃的なシーンに出会いました。羽化しかけたセミの幼虫に、スズメバチが襲い掛かっていたのです。

スズメバチの一種に食べられる羽化直前のセミの幼虫

ちょうど羽化が始まって背中が開いたところを、スズメバチの一種が目ざとく見つけて食いついたのです。セミの幼虫はなすすべもなく体をちぎられて肉団子にされていました。5年余りを地中で過ごし、やっと地上へ出て成虫になろうというところで起きた悲劇です。
・・と書くのは、セミの側からの一方的な見方ですね。生態系を客観的に見れば、スズメバチにも事情があり、おそらくこのセミの肉団子は、巣へ持ち帰ってスズメバチの子育てに使われるものです。
そもそもスズメバチがそうして増えると危なくて困る、というのは人間の側からの見方です。スズメバチやアシナガバチなど肉食性のハチがいなければ、イモムシなどが増えすぎて植物が食べて尽くされてしまう可能性もあります。

羽化場所を探して地上を歩き回るアブラゼミの幼虫

懸命に羽化の場所を探して歩き回るセミの幼虫を見ていると、応援したくなるのは当然です。でも、たとえそれが鳥やハチなどに食べられたとしても、そうした関係性も含めて生態系のバランスが保たれていることを、しっかり伝えていきたいと考えています。
(生物担当学芸員)

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相模大野でセミの羽化を観察

7月29日、大野南公民館の主催でセミの羽化観察会が行われ、生物担当学芸員がお手伝いをしてきました。なんと65組の親子の申し込みがあったそうですが、野外での観察もあるため、20組の定員で抽選となり、40名ほどの親子が参加してくれました。まずは公民館内で、セミの一生や生活、抜け殻から見分けるセミの種類についてお話をしました。

公民館内でセミについてのお話

その後、いよいよ近くの相模大野中央公園へ向かいます。探し始めて5分ほどで、歩いているアブラゼミの幼虫が見つかりました。そして、10分ほどで羽化が始まっているところも!見やすい位置で羽化しているところにみなさん注目しています。

羽化に注目

観察しやすい高い位置で羽化しているセミも

また、ニイニイゼミの幼虫を見つけてくれた人もいました。7月中旬くらいに羽化のピークとなるので、この時期に見られるとは思いませんでした。

羽化場所へ向かうニイニイゼミの幼虫

さらに、こんな珍しいものも!ミンミンゼミの成虫の腹部(左側)に白いものがくっついています。

ミンミンゼミについたセミヤドリガの幼虫

これは、セミヤドリガという寄生性の蛾の幼虫です。なぜかヒグラシについていることが多いのですが、ミンミンゼミについているのはちょっと珍しいと思います。
参加者全員が羽化の様子、特に逆さになっている状態から、頭をもたげて腹の先が抜け、翅が伸びていく劇的な変化を見ることができました。
抽選倍率が高く、外れてしまったみなさんには申し訳なかったのですが、セミの羽化はこの季節の夜7時半頃に樹木の多い公園などに行けば必ず見ることができます。家の近くなどでぜひ観察してほしいですね。
(生物担当学芸員)

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梅雨が明けて目に付く昆虫

梅雨が明けて真夏のお天気が続いています。そんな中、目につくようになってきた昆虫がいくつかいます。まずはこちらの、ヨツスジトラカミキリです。

ヨツスジトラカミキリ

タイガーカラーはスズメバチやアシナガバチの仲間に見間違えて一瞬どきっとしますが、まさにそんな効果を狙った配色(ハチへの擬態)とされています。
そして、こちらのトンボはナツアカネです。

ナツアカネ

まだ未成熟なので全体的に黄色っぽいのですが、秋になると真っ赤に変わり、いわゆる赤トンボの一種となります。
そして、樹木の洞(うろ)などで目を凝らすと、こんな昆虫も。

キマダラカメムシ(幼虫)

キマダラカメムシの幼虫です。この複雑な模様を拡大して見ると、何となくインカ帝国の遺跡から出てきた遺物を連想してしまいます。ちなみに、秋に成虫になると、関東では最大級のカメムシです。

キマダラカメムシ(成虫:秋に撮影)

日中は暑すぎるのか、虫もあまり活動していません。洞や葉陰などでひっそりと休んでいるようです。
(生物担当学芸員)

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黄色いオオシオカラトンボ

博物館の建物の周囲には排水溝があり、そこにトンボがいることがよくあります。7月28日、酷暑の中で黄色いトンボがとまっていました。

オオシオカラトンボ

オオシオカラトンボです。オスは鮮やかな水色のトンボですが、とまったり飛んでいたりするのはいずれも黄色く、メスばかりだな、と思っていました。

別の日に撮影したオオシオカラトンボ(オス)

しかし、あまりにもメスばかりなのでふと思いつき、図鑑で調べてみました。すると、羽化したばかりのオスはメスと似て黄色いことがわかりました。写真を見直してみると、この個体は腹部の先に膨らみもないことから、やはりオスだということもわかりました。もう少し時間が経つと、オスは全身が黒くなり、さらに灰白色の粉で覆われることで水色に見えるそうです。近い仲間のシオカラトンボの水色も同様です。

シオカラトンボのオス 複眼も青いので、黒いオオシオカラトンボと区別できます

羽化直後のオオシオカラトンボがいるということは、やはり博物館の排水溝でヤゴが育ったということです。こんな流れの不安定な場所でどうやって成虫にまで成長したのか、ちょっと不思議ですね。
(生物担当学芸員)

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カラスウリの花咲く夜 その2

カラスウリの開花を先日のこのブログで紹介しましたが、しっかり撮影してみようと、7月25日のまだ少し明るい18:50にまず様子を見てみました。

カラスウリの1枚目

まだレースの花弁はつぼみにほぼ収まっています。しかし、20分後の19:00には、少しほぐれるように開いています。

カラスウリの2枚目

10分後の19:10は・・

カラスウリの3枚目

そして、19:20には、だいぶ開きました。

カラスウリの4枚目

ここからは少しゆっくり開いていったので、20:00に改めて見てみると、しっかりレースを広げていました。

カラスウリの5枚目

近くのクヌギの幹から樹液の発酵臭がしていたので確認すると、ちょっと小さめのノコギリクワガタが来ていました。

ノコギリクワガタ

アブラゼミの羽化もあちらこちらで見られました。

アブラゼミの羽化

ニホンカナヘビはススキの葉の上でお休み中・・ライトを当てて起こしてしまいましたが・・。

ニホンカナヘビ

夏の夜の生きもの観察は、蚊やハチの対策をしっかりして臨むと、見どころがたくさんありすぎて忙しいくらいでした!
(生物担当学芸員)

 

 

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カラスウリの花咲く夜

7月23日、ナイトプラネタリウム&観望が終わった夜の博物館のお隣で、妖しく咲く花がありました。

夜の闇の中で咲く花

カラスウリの花です。
秋に熟す果実は、季節を象徴するような朱色が鮮やかですが、花は夜に咲きます。

秋に実ったカラスウリの果実(2020年10月撮影)

花が夜咲くのは、花粉を運んでもらう相手を、夜行性の蛾の仲間に担ってもらおうという戦略のためです。

レースを広げたようなカラスウリの花

レースを広げたような花弁からは、ほんのりと甘い香りが漂います。
これからしばらく、夜のお花見が楽しめそうです。
(生物担当学芸員)

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ツクツクボウシ鳴き始める

7月23日、博物館お隣の樹林地で、ツクツクボウシが鳴いていました。一昔前は、お盆が近づくと鳴き始めるセミでしたが、少しずつ早まっているように感じられます。鳴き声だけで写真は撮れなかったので、かわりに同じ日に見たアブラゼミの抜け殻の写真を紹介します。

アブラゼミの抜け殻

ミズキの葉の裏についていました。ちなみに、近年は全体的にセミの鳴きはじめが早くなっていて、今年のヒグラシの初認は6月30日(相模原市立博物館駐車場)でした。ニイニイゼミの初認は6月28日で例年より少し遅いくらいでしたが、ミンミンゼミは7月14日(いずれも博物館駐車場)で、やはり少し早めです。
近くには、ハートを背負うラブリーな虫、エサキモンキツノカメムシがいました。

エサキモンキツノカメムシ

クサギの花も咲いています。この花が咲くと、真夏の到来を感じます。

クサギの花

梅雨も明けて、セミも出揃ってきて、いよいよ夏本番です。
(生物担当学芸員)

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公民館で牧野富太郎博士のおはなし

7月22日、相模原市南区の上鶴間公民館の教養講座でお話をしてきました。テーマは「牧野富太郎博士の功績と、相模原の植物」です。

講演の様子

NHKドラマの主人公のモデルとして脚光浴びる牧野富太郎博士について、日本の植物学の発展にどのような貢献をしたのか、また、博士がこだわった標本の意義、学名のきまりなど、ドラマを見るうえで知っておきたい情報を紹介しました。講座の定員は30名でしたが、申込み開始からすぐに定員に達してしまったそうです。当然ながら、参加された方のほとんどがドラマをご覧になっているとのことでした。
実物の標本や牧野図鑑を持ち込んだため、休憩時間には標本を取り囲んでの植物談義も。

牧野日本植物図鑑(初版本)

休憩時間の様子

一部、植物分類学の専門的な内容も交えた内容でしたが、みなさん熱心に耳を傾けてくださいました。最後に、牧野博士にゆかりのある、相模原の植物も紹介しました。牧野博士は、記録にあるだけでも数回、相模原市域を訪れています。そのうちの1回は、1922年6月4日に与瀬駅(現在のJR相模湖駅)から相模川の渓谷で採集し「サツキ〈野生品〉ヲ採ル。又ヤシャゼンマイ多シ サツキハ花盛リナリ」と書き記しました。

サツキ(写真は相模川の支流の道志川で撮影)

ヤシャゼンマイ(写真は相模川の支流の道志川で撮影)

現在はダム湖となっている渓谷ですが、博士が訪れた頃はどんな様子だったのか、想像が膨らみます。
ドラマも中盤に差し掛かっています。植物学や標本、学名といった専門的な事柄の理解が進むのも大変ありがたく、博物館でも折々に牧野富太郎博士の業績を取り上げていきたいと思います。
(生物担当学芸員)

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葉っぱの上のコウチュウ

博物館駐車場のフェンス沿いは、つる植物がたくさん絡みついています。その葉の上にはいろいろな虫がいるので、たまに見回っています。7月20日、こんな虫を見つけました。

エゴヒゲナガゾウムシ

エゴヒゲナガゾウムシです。ゾウムシの仲間は全体的に不思議な頭の形をしているのですが、この虫もまた、独特です。上から見ると眼が左右に離れてついていて、カニのようにも見えるのですが、正面側から見ると頭部が三角形で平らになっていて、別名であるウシヅラヒゲナガゾウムシの名前がしっくりきます。

正面から見たエゴヒゲナガゾウムシ

その名のとおり、エゴノキのまわりで見ることが多く、この場所も近くにエゴノキがあり、ちょうど果実が実る頃です。
この日はほかにも、クロウリハムシがいました。

クロウリハムシ

黒とオレンジ色のコントラストが美しいハムシの仲間です。
また、こちらは定番のマメコガネです。マメコガネは、葉が揺れたり、手を近づけたりすると、後ろ足をピンと逆八の字に開きます。

マメコガネ(交尾中)

なぜこんな動作をするのかよくわかりませんが、体操のポーズを決めているように見えておもしろいので、ついちょっかいを出してしまいます。
ほんの5分ほど見て回っただけでしたが、3種類のコウチュウの仲間を楽しく観察できました。
(生物担当学芸員)

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水で巣内を冷やすアシナガバチ

先日、このブログで博物館中庭でのキアシナガバチの巣作りを紹介しました。その巣も徐々に大きくなり、働きバチの数も増えてきました。そんな中、この猛暑の中で興味深い行動を観察できました。

キアシナガバチの巣

アシナガバチやスズメバチの仲間は、巣内の温度が上がりすぎると卵や幼虫が死んでしまうため、温度を下げる必要があります。一説には、巣内が33度を超えると冷却を始めると言われています。よく見られるのは、巣の内部に向けて翅(はね)を震わせて風を送る行動です。もう一つは、水滴を入口に付けて、その気化熱で冷やすという方法です。博物館の巣をよく見ると、しっかり入口に水滴がついています。

巣の入口についた水滴

働きバチが、口に水滴を含ませて、それを運んでくるそうです。映像などでよく知られた行動ですが、実際に巣に水滴がついている様子は、間近に観察できなければ見るこちはありません。来館者の方も、「怖いもの見たさ」もあるのか、長い時間巣の様子を観察されていました。

観察する来館者

人間にとって怖い存在のアシナガバチですが、巣を見ていると、頻繁に虫の肉団子を運び込んできます。ハチがいなければ、博物館周辺のイモムシなどの数もコントロールできないのだろうなと感じます。間近で観察することで気づくことがたくさんあることを実感しています。
(生物担当学芸員)

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