ギンラン開花

5月1日、清々しい晴天と、5月らしい爽やかな風が吹く一日となりました。思わず五月晴(さつきばれ)と言いたくなりますが、この言葉の意味は、旧暦の5月の晴れ間、すなわち梅雨の晴れ間を指すため、誤用になってしまいます。ともかく、5月の初日はとても気持ちの良い晴天でした。そんな中、博物館前庭のギンランが開花しました。

ギンラン(5月1日)

里山を代表する野生ランの一種です。大振りで黄色い花が豪華に咲くキンランと比べると、ギンランは背丈がだいたい10~15センチメートルほどで、花も長さが1センチメートルほどと小さなランです。

博物館となりの樹林地内で咲いたキンラン(高さは約50センチメートルほど) 残念ながら、一般の方が入れないエリアに咲いています

それでもギンランはその清楚な佇(たたず)まいが人気のランです。花を拡大すると、ランの仲間らしく複雑で立体的な形態です。

ギンランの花のアップ

前庭のかなりわかりにくい場所で、しかも小さな植物なので、見つけるのはちょっと難しいかもしれません。そのぶん、こちらの拡大写真でお楽しみいただければと思います。
(生物担当学芸員)

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ツメレンゲの妖精

先日、ツメレンゲの自生地に調査に向かいました。
目的はツメレンゲと、とあるチョウの生息状況の確認です。
目的地につき目を凝らすと、崖にツメレンゲがあるのが確認できました。
少し距離があるので望遠で撮影します。

ツメレンゲ

その周囲で待つこと10分以上。
地面すれすれをひらひらと小さなチョウが飛んできました。
慌ててレンズを向けると…目的のチョウです!

クロツバメシジミ

このチョウはクロツバメシジミというシジミチョウのなかまで、幼虫がツメレンゲを餌(食草(しょくそう))にします。
神奈川県内では食草のツメレンゲ自体が少ないため、このチョウも貴重な存在です。

ボロボロの個体

その後も観察すると、ボロボロの個体も観察することができました。
今回確認できたのは、春になって蛹から羽化した第一化の成虫と考えられます。
今後も調査をする予定ですが、崖までの距離が遠いため、次回の調査には双眼鏡を持っていく必要がありそうです。

イタヤカエデのなかまの花

帰り道ではカエデの花が美しく咲いていました。

ミヤマカラスアゲハ

ミヤマカラスアゲハの給水も観察できました。
今の時期に見られる春型は、夏型よりも色鮮やかで美しいです。
(動物担当学芸員)

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カザグルマ(自生地)の開花

4月30日、市内中央区のカザグルマ(キンポウゲ科)の自生地で開花を確認しました。先日、博物館で系統保存のために栽培している本種の開花をお知らせしましたが、その株のもともとの出身地です。

大きく開いたカザグルマの花

カザグルマは、神奈川県内では横浜市内の1か所と、相模原市内の中央区と緑区に数カ所の自生地が残るだけとなっており、県のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類にランクされています。この自生地でも、フジなど他の植物の繁茂により存続が危ぶまれるため、移植や補植を何度か試みていますが、なかなか思うようには成功しません。ちなみに写真の株は、補植によって殖えた株ですが、もともとの自生株は現在、開花が確認できない状態です。

つぼみを合わせて10数花ついていました

つる性の樹木であるカザグルマは、樹林の林縁部や崖地の株など、ある程度日当たりが良く、なおかつ湿った環境を好むようです。栽培下で育てるのはそれほど難しくありませんが、自然の中では環境改変などの影響を受けやすい場所のため、保全が難しい植物です。今後も系統保存と共に自生地の状況を見守っていきたいと思います。
近くでは、タブノキの新芽が伸びていました。優しい色合いです。

タブノキの新芽

また、自生地に面した畑地では、オスのキジが「ケーンケーン」と鳴いてほろ打ち(翼を打ち叩いて音を出す、なわばり誇示の行動)をしていました。

キジのオス ほろ打ちの瞬間は撮影できませんでした

野鳥の繁殖期も本格的になっています。
(生物担当学芸員)

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石器づくりを実演しました!

4月30日(水)は休館日です。

4月29日(火・祝)に当館エントランスで石器づくりの実演を行いました。

家族で見学してくれました。

考古担当学芸員は、黒曜石を割って石器を作っており、
過去の人々が石器をどのように作っていたのか、体験を通じて勉強しています。
そっくりな石器を作ることはとても難しく、旧石器・縄文時代の人の技術は計り知れないものがあります。

さて、4月末からのゴールデンウィークで来館者が増加することが見込めますので、
土器×2タッチ以外にも考古分野の普及を行うことにしました。

テーマは「石器づくり」。
石器づくりの実演から伝えたいことは以下の2点です。
・角度を意識すると石以外にも、鹿角・硬木でも割れること。
・黒曜石の割れ口はとても鋭く、昔の人の刃物として使われたこと。

まずは場所。どこでやるか。イメージはなんとなく立ち止まって見てもらう感じです。
エントランスの正面に空いたスペースがあり、石器づくりのスペースとして十分です。

2畳程度あれば十分です。

次は安全管理。割る際に欠片が飛び散る場合があります。
その対策としてコロナの感染症対策として使用したアクリルボードを設置しました。

また、割れた黒曜石はとても鋭く、石器づくりの時に誤って手を切ってしまうことは日常的にあります。
口頭で説明するよりは、実際にモノを切るのが良いと考えました。切るのに、ハサミやカッターナイフを使うものとして、「ペットボトル」を思いつきました。
日常的に持ち歩き、切る場合にはカッターナイフが必要です。

黒曜石でペットボトルを切りました。

黒曜石がさわれないのはあまり面白くないので、考古担当学芸員が作った矢じり、石槍を近くに置いてさわってもらいました。作った石器だと、割れた欠片よりも安全です。

作った石器と鹿角を置いて、さわってもらいました。

当館に入ってすぐ、しかも黒曜石を割る音がするので、来館者の方はとても興味深そうに見てくれており、合計176名の方が見学してくれました。
鰻(うなぎ)屋さんは蒲焼を焼く匂いでお客さんを呼び込むそうですが、石器づくりの実演は音で呼び込みます。
常設展示にも黒曜石の石器はありますが、どこが特徴なのか直感的には分かりにくいです。
今回の実演では、黒曜石の割れ方やその切れ味を伝えることができます。まさに「百聞は一見に如かず」ですね。


以前紹介した「土器×2タッチ」と合わせて今後も取り組んでいきたいと思います。
(考古担当学芸員)

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クロオオアリの雄アリ

博物館の中庭にはクロオオアリの巣があります。
その巣の回りに羽アリがいると教えてもらいました。

クロオオアリの巣

クロオオアリは、ちょうどこの時期に「結婚飛行」と呼ばれる繁殖行動をします。
新たな女王となるアリと雄のアリが、出会いを求めて生まれた巣を飛び立つイベントです。

雄アリたち

雄アリが巣の入り口に並んでいます。
周囲の働きアリたちも、普段とは違うせわしない動きをしています。
観察時に出てきたのは雄アリのみで、新女王アリは見当たりませんでした。

続々と出てくる雄アリ

「結婚飛行」のあとに新たな巣を作り始める新女王アリと異なり、雄アリはやがて死んでしまいます。
この巣を飛び立った雄アリたちは新女王と出会うことができるでしょうか。
雄アリたちの、一世一代の大勝負が始まります。
(動物担当学芸員)

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土器を「さわる」ということ

27日(日)に土器×2タッチを行い、95名の方に参加していただきました。
参加者に「レプリカですか?」とご質問いただき、自信をもって「本物です!」と答えています。

さて、土器をさわることはどのような効果があるのか、考えてみます。
そもそも、ヒトはなにかをさわるとどう感じるか?
触覚を言語化すると以下のように考えられます。
冷たい・熱い 硬い・柔らかい ツルツル・ザラザラ 軽い・重い
分かりやすいのが「握手」。掌がゴツゴツなのか、細身なのか。何気ない人柄を間接的に感じる場合も。

ザラザラした石皿(手前)もあります。

立体的な装飾がある土器も。

来館者の年齢層は高齢の方が多く、お子さんは家族で来館される場合が多いです。
お子さんに遺跡を「歴史」の視点から、座学で理解してもらうのはなかなか難しいです。
小学校高学年なら学校で習いますが、それでも限界を感じます。

それでは「体験」ではどうでしょうか?
小さいお子さんでも、硬い・柔らかい、ツルツル・ザラザラなどは理解できます。
歴史の認識は年齢を追うごとに深まりますが、体験は年齢に左右されずにみなさんが感じるものと捉えています。
そしてさわったから、気づくこと・わかることがあります。

5000年前の縄文土器の立体装飾 土器の口縁部についていました

土器・石器が歴史の断片であることは間違いなく、さわる体験から昔の生活の一部だけでも実感できればと考えています。
幼いころ何気なく博物館でさわった土器の思い出が、遺跡や地域史への関心を引き出す契機となるかもしれません。

ご来館し、ぜひタッチしてください!(今年度の開催予定日はこちら
(考古担当学芸員)

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ヤエムグラのトゲ

大型連休の2日目、抜けるような青空が広がりました。博物館周辺のミズキも開花して、森の中が急ににぎやかになりました。

ミズキの花

その足元へ視線を移すと、こんな植物がわさわさと生えています。

ヤエムグラ

見覚えのある方も多いはず。この草をちぎって友達の服へ投げると、ピタッとくっつきます。そんな遊び(いたずら?)をした記憶がよみがえります。この植物の名は、ヤエムグラ。衣服などにピタッとくっつくその秘密は、全草に生えているこのトゲです。

茎から下向きに生えているトゲ

このトゲは、ヤエムグラがお互いに、あるいは他の草へもたれかかって伸びていかれるように発達したものです。こうすれば、丈夫な茎を持たなくても上へ伸び上がれるというわけで、実際、ヤエムグラの茎はとても弱々しくすぐに折れたりちぎれたりします。
花は極小で、大きさは2ミリメートルほどしかありません。

ヤエムグラの花 下の球形のものは若い果実

果実のトゲトゲは“ひっつき虫”として他の動物の毛にくっついて運ばれるためのものです。同じ植物の中に、目的の異なるトゲが生えているのが興味深いですね。
さて、林内にはほかにも、目立たないけどかわいらしい植物が開花していました。ヒゴクサです。

ヒゴクサ

上にスッと伸びた部分が雄花の花穂(かすい)で、下の白いフワフワがついている部分が雌花の花穂です。目立つ花は無くても、なんとなくかわいらしくて写真を撮りたくなる植物です。
(生物担当学芸員)

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津久井湖城山公園で自然観察会

大型連休初日の4月26日、県立津久井湖城山公園で自然観察会「春の城山 森歩き」が行われ、当館生物担当学芸員が講師としてお手伝いしてきました。この観察会は、城山の多様な森の様子をのんびり歩きながら体感することを中心に企画されました。
ここ数日の中ではちょっと肌寒さを感じるくらいの気温で、つまり、山歩きには最高のコンディションです。同公園の「花の苑池」を出発し、「神奈川の美林50選」に選ばれた「江川ヒノキ」の樹林に入ります。クロツグミやキビタキ、オオルリといった夏鳥が美声を響かせていました。20名超の参加者全員で耳を澄まして堪能しました。

江川ヒノキの美林内で夏鳥のさえずりに耳を澄ませます

2週間前に下見をした際にはまだ咲いていなかった様々な春の花が咲いていました。こちらはイカリソウです。

イカリソウ

江川ヒノキの森を過ぎると、モミやカヤなどの針葉樹に、常緑広葉樹、落葉広葉樹などが入り混じり、森の様子が変化します。ナラ枯れによってコナラが伐採されたあとには、陽樹(日当たりの良い場所で早く成長する木)のカラスザンショウがたくさん伸びていました。カラスザンショウと言えば、葉痕(ようこん)のにっこりマークです。

昨年の葉が落ちた痕の葉痕(ようこん)が笑顔に見えるカラスザンショウ

参加者のみなさんも喜んで写真を撮っていました。こちらはハナイカダです。

ハナイカダ

葉の上にちょこんと乗った花がかわいらしく、人気でした。
途中、ミツバウツギやコバノガマズミなども咲きそろっていて、春が一気に進んでいるのを感じられました。ジュウニヒトエも満開です。

ジュウニヒトエ

城山は、美しい木々や草花が多い一方、危険な植物もあります。ツタウルシです。

幹にからみつくツタウルシ

特に瑞々しい新緑の季節は、毒成分も強くて危険です。参加者のみなさんにも、決して触れないよう注意を促しました。
山頂へは行かず、ふもとをぐるりと回るのんびりコースでしたが、しっかり山道を進み、たっぷり2時間半の行程を楽しく歩くことができました。
(生物担当学芸員)

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小雨の林道にて

4月23日、当初の予定では緑区の山へ登り、絶滅危惧植物の生育状況を調査する予定でした。しかし、この日だけ降水確率90パーセント予報になってしまったため、予定を変更して緑区内の、自動車で行かれる場所を回って絶滅危惧植物の現況調査を行いました。
小雨が降る中でしたが、むしろこうしたお天気では新緑の微妙な色の変化が際立ちます。

雨に濡れる新緑(緑区名倉)

そして、フジの存在感が突出する季節でもあります。

フジの花がいたるところで咲いていました

この色あいも、晴天よりも小雨くらいが際立ちます。

咲き始めのフジ

マルバウツギは・・雨に濡れて花がすべてうつむいていました。

マルバウツギ

そして、やっぱりこの天気でこちらも元気いっぱいでした。

ヤマビル

ヤマビルです。雨に濡れた山道を5分ほど歩いただけで、大小たくさんのヤマビルが足を伝って登ってきました。幸い、歩いた時間が短かったため、車道へ戻ってすぐにヤマビルチェックをしたおかげで吸血されずに済みました。
(生物担当学芸員)

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カザグルマ開花、エビネは花盛り

4月24日、市域自生株の系統保存のため、博物館で栽培しているカザグルマ(キンポウゲ科)が開花しました。先日、シロバナハンショウヅルの記事で紹介した、同じ場所です。

カザグルマ 駐車場のフェンスにからみついています

10個近いつぼみをつけていて、開花したのはまだ2輪なので、これから順次咲くでしょう。
エビネ(ラン科)も花盛りです。中庭(正面から入って右手の大きな方)の中央あたりで元気に咲いています。円形に株が咲きそろう様子は圧巻です。

円形に咲きそろったエビネ

特別展示室の出入り口の向かいからガラス越しによく見えるので、ぜひご覧ください。

まさしく“里山の女王”

そして、エビネの反対側の中庭(小さな方)には、着生ランのカヤランが咲いています。こちらは一昨年、市内緑区の林道で、強風で落ちてしまった株を相模原植物調査会の会員が見つけ、それを館内の樹木に水ゴケと共に縛り付けてあるものです。

カヤラン

花がとても小さいので、これは見つけにくいし、ガラス越しではちょっと見えないかもしれません。
どんどん花が咲き進んでいます。エビネは前庭にもちらほらとありますので、ぜひご覧ください。
(生物担当学芸員)

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